急の巻 忍者に生きるか、青春に生きるか

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 あたしはテロリストと共に一緒にトイレに行くことになった。そのテロリストは男だ、もし、女性が混じっていて個室まで一緒に行くと言われていたら「計画」はオジャン。男で助かった…… ただ、相手が超ド級の変態野郎である可能性も捨ててはいけない。 女子トイレに入ると、テロリストは驚いたような声を上げた。 「近頃の小学校のトイレって広いし綺麗なんだな」 確かに近頃のトイレは男女ともに綺麗だ。あたしはロクに返答もせずトイレの個室に入り、手を拘束している結束バンドを外した。 あたしにとっては難度一の知恵の輪よりも外すのが楽な玩具も同然だ。 すると、ノックの音が鳴った。 「お嬢ちゃん? おじちゃんが手伝ってやろうか?」 何をするつもりだ。あたしは軽く舌打ちを放った後、ノックを返した。 確実にドアの前にテロリストを誘導するためである。 「どうした?」と、テロリストが言った瞬間、あたしはドアを思い切り蹴飛ばした。 テロリストはあたしが蹴り飛ばしたドアとトイレのタイル壁とのサンドイッチになり挟まれた。テロリストは気絶し、その場で白目を剥き口から泡をブクブクと吹きながら倒れてしまった。 「Too BAD~(マヌケ!)」 さて、あたしは自由だ。このまま外に出て通報したいところだが、人質が取られている以上は下手に通報は出来ない。間違って人質が殺されては、元も子もない。とりあえず、情報だ。 あたしは目の前で倒れているテロリストのインカム型の無線機を奪った。おそらくは放送室の電波を間借りしオープンチャンネルになっているのか、常に何かの声が聞こえる。 〈定時連絡、保健室前異常なし〉 〈定時連絡、職員室前異常なし〉 〈定時連絡、校門前来訪者なし〉 定時連絡を取り合っているのか…… こいつも定時連絡を取り合っているなら厄介だな。と思った瞬間、ポケットに入れていたあたしのスマートフォンが鳴り響いた。届いたのは画像つきのメールだった、画像は目隠しと手足を拘束された泰司の姿だった。 「あいつのスマホから送信してるのか」 送信先は母親の携帯電話…… つまり、現在、民自党総裁選の真っ最中の穗積の元である。 メールの文面はお決まりのパターンで〈お前の息子は我々赤い牙が預かった、無事に返して欲しくば総裁選を辞退しろ〉だった。卑怯な奴らめ。 まぁ、監視のために泰司のスマートフォンのやり取り全てがわかるように監視アプリを入れているあたしに言えたことではないが(もし、あたしが忍者だと誰かに連絡された時の保険だ、杞憂ではあったが)。 そのおかげでテロリストの動向と目的が丸わかりになっているのだから、許して欲しい。その内容は数十分前、あたし達の教室をテロリストが占拠する前の話である。 しかし、今になっても穗積からは「辞退に応ずる」と返信はない。母としては間違っているが、国会議員としては正しい「テロリストには屈さない」と言うことだろうか。 「おばさま…… おつらいでしょうに」 あたしは懐に隠し持っていたクナイを出した。あたし一人で職員室に乗り込んで人質を開放してやろうと考え、グッとクナイを握りしめ気合を入れた。
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