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剛臣はギロリと泰司を睨みつけた。
「政治家だったこいつの親父だよ。まぁ、ウチの国から技術研修生入れてるせいで日本人の雇用が減ってきてな、危機感を覚えたんだろう。その制度をぶっ壊すために国会内で活動してたんだ」
「パパがこんなことを……」
「うちの国と付き合いがある民自党の政治家からすれば目の上のタンコブだ。そこで、俺みたいな工作員の出番ってわけ。このまま上層部の方針に従っておけばいいのに、拒否するもんだから、活動家に扮したうちの工作員に処理させたよ、長いものには巻かれろが理解出来ないから、こんな目に遭うんだよ」
「下衆ね」
「これが我が国の国益だから仕方ない。ところが、奥さん…… 泰司くんのお母さんがその志を引き継いで国会議員にまでなっちまった! 雇い主も閑職同然の役職を与えて目立たせずにいたのに、仕事はチャンとするから目立ちやがる。一年前に至ってはついに総理に近づけるぐらいの人気と実績を得やがった。そこで、息子を脅しの材料に使うために、またもや俺らの出番ってことだ」
「あたしが監視する前から監視されてたんだ…… 人気者ねぇ? アンタ?」と、あたしは心の中で呟いた。
「俺に任されたのは上宮泰司のクラスでの監視。そのために時の総理大臣が日本国籍を偽造してくれたよ。何をするわけでもない、上宮穗積議員に対する脅しをいつでも開始できるように一緒のクラスにいただけだよ。俺が十二歳の頃なんて難民から少年兵にされてAKライフル握ってたからな。青春なんてなかった…… だから日本での小学生としての生活はバカバカしくも楽しかったよ。好きな子も出来たしな」
「じゃ、あの告白は嘘じゃなかったんだ」
「うん、今でも好きなのは変わりない。でも、忍者だったなんてなぁ……」
「あたしだって、好きだった人が工作員で頭の中のモヤモヤが取れないわよ」
その時、壁掛けテレビより激しい拍手が聞こえてきた。アナウンサーが〈これより、民自党総裁選候補者、開票に入ります〉と宣言をする。
剛臣は大きな溜息を吐いた。
「はぁ…… この開票が終わるまでに辞退させるのは無理そうだね。じゃ、息子を見捨てた非情の総理大臣ってシナリオに変更しようか? 上宮泰司くん? 悪く思うなよ?」
剛臣は銃口の先をあたしから泰司に向け直した。そして、躊躇いなく銃爪を引いた。あたしは瞬時に長机の足にマフラーを巻き、全力で引いて持ち上げた。持ち上げた長机で泰司に向かう銃弾を反らした。
「忍者ってこんなことも出来るんだ…… 気になってたんだけど、古賀さんはどうしてこいつと一緒にいるの? 俺と同じ監視目的?」
「そうよ、監視よ。ドジって正体バレちゃったから秘密保持のためにずっと一緒にいたの」
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