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結の巻 青春のはじまり
あたしが目を覚ますと、そこは見慣れた大広間だった。そう、ここはあたしの家の大広間だ。慌てて跳ね起きると、隣には泰司が正座をして待機していた。泰司は跳ね起きたあたしの姿を見て安堵の表情を見せた。
兄・母・黒夜叉もその回りにおり、安堵の表情を見せた。
「みんな…… 一体……」
「やっと目を覚ましおったか」
あたしの目の前には父が仁王立ちをしていた。その隣には穗積が正座をしてちょこんと座っていた。
「おばさま?」
父があたしの頭を撫でた。
「此度の活躍、見事であった。お前の尽力で上宮穗積女史は見事総理になることが出来た」
「え? それじゃあテロは?」
「お前が泰司くんを守護りきり、上宮穂積女史が総理になったことでテログループは瓦解だ。後始末も我々と警察でしておいた」
「蘇我くん…… は?」
「その日のうちに国外追放だ。母国は知らぬ存ぜぬを繰り返しているがな。ま、気にするな」
「そう……」あたしは無感動だった。百年の恋が一気に冷めたような切なさと心地よい冷たさが胸の奥を叩く。
「あの男、総理が用意した戸籍で蘇我たる少年になりきっておった。両親・親戚・過去の経歴全てが捏造! それを見抜けずにいた我々もまだまだだ」
穗積があたしの前に駆け寄り手を付き、何度も何度も頭を下げた。
「この度は息子を守って頂き…… 誠に感謝のしようがございません!」
「いえ……(いかん、元々殺すつもりで近寄ったなんて言えない)」あたしは苦笑いをしながらバツが悪そうに穗積に頭を上げるように促した。
穗積は総理になったばかりで忙しいのか程なくに大広間から去っていった。
それから父があたしに述べた。
「我々古賀家は本日より日本国総理大臣となった上宮穗積の護衛及び、工作活動の任に就くことになった。息子の泰司くんがお前の正体を知ることも公認だ! もう、お前に与えられた『上宮泰司監視』の任務を解くことになる。もう、心を締め付けることも、殺さずとも良い!」
余談だが、前総理の元で古賀家は仕事をしていない。父が「あんな金勘定しか出来ない小物に興味はない」として拒否を示していた。前総理はこの国に「忍者」がいることすらも知らないはずである。
あたしは自由になったのか。でも何故かスッキリしない。あたしは泰司に尋ねた。
「ねぇ? あたしのこと好き? 今だから言うけど、あたし、あなたに好きになってもらって、心を締め付けることで忍者の秘密をずっと守ってもらうためにずっと監視してたんだ」
泰司はあたしの問いに答えず、父に提案を投げかけた。
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