序の巻 あたしが忍者だとバレた日

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 あたしは泰司をその場に正座させた。あたしもその前にちょこんと座った。泰司はおそらく気になって気になって仕方ないであろうことをあたしに尋ねた。 「お前、何者だ? 俺を抱えてワンジャンプで電柱の上に乗ったり、電線の上を走ったり、壁登ったり…… 忍者みたいじゃないか?」 「ええ、その忍者なんです」 すると、泰司は嬉しそうな笑顔を見せた。 「すげぇ! 超カッコいい! お前、マジモンの忍者なの!?」 「だから忍者だって言ってるでしょ?」 「すげぇすげぇすげぇすげぇ! 火遁とか水遁とか雷迅とか出来るのか?」 普通の忍者であれば、火遁も水遁も雷迅も「敵から逃げるため」の忍術だ。 しかし、あたし達の古賀流忍術は物や自然に宿る「付喪神(つくもがみ)」に通じているために、火花程度の火や、水滴や水道、近辺にある電線の電力を借りる(盗電)ことで、一般的に皆が思うような殺傷能力を持つ忍術すらも可能である。 正直なところ、忍術と言うよりは魔術や魔法に近いとあたしは思う。 「まさか、昔からのクラスメイトが忍者なんてな……」 「そう。だから鉄の掟で秘密を知ったあなたには死んで貰うね?」 「おいおいおいおい! 俺まだ十二歳だぜ? 死にたくねえよ!」 「でも、決まりなんです」 その瞬間、泰司は疑問符(クエスチョンマーク)が頭の上に浮かぶような顔を見せた。 「ならなんでさっさと殺さなかったの? 多分だけど、三回か四回は殺すチャンスあったよね?」 「そ、それは……」 「人、殺したことないでしょ? ある方がおかしいんだけど……」 そう、あたしは人を殺したことがない。江戸時代が終わってから、我が一族は人を殺したことがないとされている(正直、昭和あたりは怪しいところがあるけど)。あっても社会的な抹殺のためにスキャンダルの公表・捏造をするぐらいだ。 直接人を手に掛けることはない。 「とりあえず、あなたの命は保留しとく。でも、あたしが忍者だって誰かに言ったら、その言った人共々一族郎党抹殺するから宜しくね?」 「こ、怖いな…… お前。何? スマホとかでお前が忍者だってツレに送った時点でアウト?」 「はい、アウトです」と、あたしは満面の笑みを浮かべながら言った。 「……わかった。俺、誰にも言わねぇよ」 あたしはきつくきつく念押しをした後、泰司を自宅マンションの前まで送り届けた。その瞬間、あたしは肌寒さを前に軽いくしゃみをしてしまった。 「くしゅん!」 「ところで、お前、下着姿で何やってたんだ? まだ寒いだろ?」 「銭湯に変態盗撮魔がいて、一戦やらかしたのよ」 「お前、忍者だろ? 忍べよ。だから俺みたいな一般人(パンピー)にバレるんだぞ?」と、言いながら泰司は自宅マンションのロビーの自動ドアをくぐり抜けた。そして更に踵を返して一言。 「お前、鶏頭なんだから三歩歩いても忘れるなよ?」 あたしは泰司の額に向かってクナイを投げてやりたいと本気で思ってしまった。
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