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「カスバートの言ってたことが本当なら、俺は尉官を降格になるようだからな。後方勤務の下士官は個人の護身用の銃を携行できないんだ。だから、預かっててくれ」
リロイはぎこちない手つきでリボルバーを手に取った。何度か確かめるように握り直すと、床に落ちていたコートを拾い上げ、ポケットにそれを入れる。
「わかりました。お預かりします」
そのコートを、階段に向かう戸口の脇の外套掛けに引っ掛ける。
「その代わり、約束してもらえますか」
「なんだ」
リロイが振り向いた。
「待ってますから、必ず取りに戻って来てください」
リロイの声が、ヴァイオリンの弦のように張り詰めて震える。その声の響きで、わかった。
リロイはエデルマンにも同じことを言ったのだ。待っているから無事に戻ってきてくれ、と。
その約束は、果たされずに終わった。
「リロイ」
ラルフはくっと顎を引いて、色の異なるリロイの両目を見つめ返す。
右舷に青。左舷に黒。
昼と夜を同時に宿す瞳。
この両目を昨夜のような深い絶望から守り通せるのなら、自分はどんなことでもする。
「約束する」
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