【1】

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 それは、醒めた心の奥底に沈んでいた温もりを揺り起こすような、どこか懐かしい旋律だった。  海からの強い風に乗って切れ切れに運ばれてくるのは、弦楽器の音色だ。なぜこんなところで、とラルフ・フェルドマンは足を止めて辺りを見回した。  見渡す限り、人影どころか動物の姿さえ見当たらない。あちこち岩肌が露出した地面を覆う立ち枯れたゴールデンロッドの高い茎が、ざわざわと風に揺れている。ところどころにアキアザミの紫が見え隠れする他は、ほとんど色彩のない風景だ。季節が秋へと移り変わっていることすら忘れてしまいそうになる。  そんな荒涼とした岬の突端に、白茶けた石造りの灯台がぽつんと立っていた。  誰かがあそこでヴァイオリンを弾いているらしい。じっと耳を傾けると、どことなく聞き覚えのあるワルツだ。弾むように軽やかなメロディなのに、音色は胸を締めつけられそうに切ない。  不思議な音楽に引き寄せられるかのように、ラルフは細く荒れた道を辿っていく。
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