いとおしい

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 あれから10年が経ち俺は28歳になっていた。  あの後すぐ、元婚約者と元親友は勘当されたらしい。  俺が「許す」と言えば話は違っていたかもしれないが、どうしても言えなかった。  若いふたりが勘当されてうまくやっていけるのか分からないが、俺が心配するような事でもない気がするし、考えたくもなかった。  俺は親に敷かれたレールの上を黙って歩き、会社を継いだ。  仕事に精力的に取り組んで、順調に業績を伸ばしている。  それに反してプライベートは……未だに誰とも番っていない。  あれ以来誰のフェロモンも感じる事が出来ないのだ。  それ以前に俺は誰かを愛する事が怖くなっていた。  信じて、愛して、裏切られるのが怖い。 *****  今、俺の目の前には広げられたお見合い写真が10枚程ある。簡単な釣書つきだ。  そろそろ結婚して跡継ぎを作って欲しいと両親に懇願されてしまった。  親が決めた以前の婚約者の一件があり、これまで強く出られなかった両親だったが今回はおじい様からの話らしく、どうしても決めなくてはいけないらしい。 はぁ……。  一応釣書に目を通す。  ざっと見た感じ一番条件の悪い人に決めた。 「この人で」  名前を登戸 七星(のぼりと ななせ)といい、年齢は18歳。男性Ωだ。  七星は綺麗とも可愛いとも言い難い愛嬌のある顔立ちをしていた。  家柄も平凡で俺の元にくる他のΩたちとは明らかにランクが2つも3つも下だった。  俺は誰の事ももう好きにはなれないだろう。  誰の事も信じる事ができないだろう。  フェロモンも感じないし、誰に対しても魅力を感じる事なんてない。  だったら貰い手のなさそうな人と結婚して、一生何不自由ない生活を送れるようにする事でこんな俺と結婚してくれる事へ報いよう。  そんな相手に対して失礼な理由で見合い相手が決まった。
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