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番外 すべてがいとおしい
七星との番生活はひと言で言って――――残念な事になっていた。
想いが通じ合い俺のフェロモンにあてられた七星がヒートを起こし、俺たちは予定していたより早く番になった。
初めて重ねた肌はお互いがお互いを失っていた半身だと思うようにしっくりきて、半身を手に入れた喜びは言葉では言い表せない程だった。
俺はそのまま籍も入れて結婚式を盛大に執り行いたかった。
だけど待ったが掛かったのだ。
他でもない七星本人から。
七星も喜んでくれると思っていた。
すぐにでも茅野七星になりたいのだと思っていた。
ダメな理由を聞けば、高校を卒業したいからだと言う。
まぁ確かに七星は頑張り屋さんで、学校の成績は振るわないがきちんと最後まで通いたいというのも分かる。
だけど、俺はそんなに了見は狭くない。
結婚したって卒業する前に高校を辞めて家に入れなんて強要するつもりもないし、本人が望むなら大学へだって進学させてやりたい。
いくら俺がそう説明しても七星は頑として首を縦には振らなかった。
――――どうしてだ?
嫌な考えが頭を過ぎるが、頭を振ってすぐに思い直す。
そんなはずはない。
七星の愛は本物だ。
俺と番になった事も心の底から喜んでくれた。
じゃあ何か他に理由が――――?
じーっと七星を見ると変顔? をしだした。
にらめっこのつもりらしい。
さっきまでとてもそんな気分じゃなかったのに、思わずぷっと噴き出してしまう。
「やた! 誠さんの負けー! 僕ねにらめっこ大の得意なんだよ? へへ」
本当に七星には敵わない。
すぐに闇に引っ張られそうになる俺の心を一瞬で明るい方へと引き上げる。
「次は誠さんの番だよー。ほらほら、頑張って」
「――――あ、あぁ」
変な顔を作ろうとするがいまいちだ。
こういう事は慣れなくて引きつってしまうのだ。
なのでとりあえずは七星を真似てみる事にした。
すると七星が噴出してお腹を抱えて笑い転げだした。
「反則だよ――! あはははは!」
涙を浮かべながら笑い転げる七星。
キミとのこんな時間がとても幸せでとても大切だ。
キミがすぐに結婚できない理由があるのなら信じて待つ事にするよ。
紙切れ一枚の事にこだわる必要なんかないんだ。
俺は七星の事を愛してる。七星も俺の事を愛してる。
それだけが重要で、それだけが意味を持つんだ。
俺の気持ちも落ち着いて、穏やかな気持ちで七星が宿題をするのを背後から抱きしめて見守っていた。
難しいと思えない問題にうーんうーんと唸っているもんだから、つい答えを教えてしまいそうになり「ダメ! 自分で考えるの!」って言って口をつままれてしまった。
「じゃあちゃんとひとりで解けたらご褒美あげるから頑張れ」
「ほんと? 分かった! 僕頑張っちゃうもんね!」
と、再びうーんうーんと唸りだす。
本当可愛い。
思わず頭にキスをすると「もう、今は邪魔しちゃダメなの!」って怒る姿も可愛いと思ってしまう。
口元が緩みっぱなしだ。
俺たちがふたりの時間を楽しんでいると、玄関の方でガチャリと鍵が開けられる音がした。
そして「ただいまー」というぶっきらぼうな声がして。
その声の主は我が物顔でそのままリビングへ入ってきて、俺の番を俺から奪い取って抱きしめた。
「七ちゃんー寂しかったよぅ――!」
七星の弟一星だ。
こいつが俺たちの番生活を残念なものにした張本人だった。
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