番外 あなたのことがいとおしい

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番外 あなたのことがいとおしい

 誠と七星が番になって、夫夫(ふうふ)になって一年が過ぎています。  七星目線です🌟 *****  僕は今ものすごーく焦っている。  何をかと言うと、もうすぐ2月14日がくるのだ。結婚して二度目のバレンタインデー。  去年はあんな事件があったりで出席日数がギリギリで補習とか色々忙しくて市販のチョコしか用意できなかったし……日ごろの感謝も込めて今年こそは特別な日にしたいんだ。  チョコはウエディングケーキみたいな大きいチョコレートケーキに挑戦するつもりだけど、プレゼントが決まっていなくてそれで焦ってる。  最近体調も良くなくてあまり多くの事を考えられないし、気がつくとものすごく不安になってたりして。  プレゼントの事考えすぎてどこかおかしくなっちゃったのかな?  去年は誠さんが本命チョコらしき物をたーくさん持って帰って来てびっくりした。貰ったチョコは全部僕にくれたからその時は貰っちゃって悪いなって思ったくらいで特に悪い感情は持っていなかったんだけど、最近になってふとその時の事を思い出すと胸がモヤモヤとして痛いんだ。  誠さんは素敵だからモテるのは仕方ないけど、チョコに添えられたカードからΩのフェロモンらしき物が香ってきたのを覚えてる。  誠さんは僕以外のフェロモンは感じられないから気にも止めていなかったけど、でももし誠さんが僕以外のフェロモンを感じられるようになったら?  素敵なフェロモンを見つけてしまったら?  そう考えるだけで僕は――。  でもこんな醜い部分を誠さんには見せたくないから、苦しくても心の奥底にしまいこんでしまわないと。  だから尚更今年は張り切っちゃってるのかもしれない。  僕は誠さんに出会ってたくさんのものを貰った。  目に見えるもの見えないもの、本当にたくさん。全部が僕の宝物。  僕は貰ってばかりで、守られてばかりで、こんなんじゃダメだよね。  僕は僕自身が愛せる人を見つけた。  それだけでいいと思っていた。  だけど誠さんも僕の事を愛してくれた。  沢山たくさん愛情をくれた。僕もそれ以上の愛情を 。  自分でも分からないんだけど、そうじゃないとどうしようもなく不安になるんだ。  いちかくんには「誠さんなら七星君の噛んだ後のガムですら喜びそう」って言われたけど。  うんまぁ僕もそれは否定できなかったりするんだけど、でもそんなんじゃ無くてもっとすごいものをあげたいじゃないか。  誠さんが感動して泣いちゃうくらい特別な物を。  決意を新たにぎゅっと拳を握る。 *****  結局夜も眠れないくらい考えたのに誠さんへのプレゼントが決まらないまま日にちは過ぎていって、バレンタインデーの二日前になっちゃった。  ――――どうしよう……。  胃のむかむかも治らないし、本当僕ってダメだな……涙が出て来ちゃう……。  でも、泣いてる場合じゃないよね。  誠さんの喜ぶ顔が見たいんだもん。  他のΩ(ひと)に負けたくないんだもん。  もう本人に訊くしかない!  誠さんへのプレゼントっていう事は内緒にしたらバレないし直接訊いてみよう。 「あのね誠さん、お父さんにプレ―――」  と、そこまで言ってやめた。  やっぱりダメだと思った。  だって僕は誠さんに嘘はつきたくない。  たとえ誠さんを喜ばせる為だとしても嘘はダメだ。  胃のあたりがきゅっとなる。  一度目を閉じて気持ちをリセットする。 「――えっとね……明後日はバレンタインデーでしょう? 去年はちゃんとできなかったし、今年は誠さんが感動しちゃうくらいすごい物をあげたいの。でも、何がいいのかぜんぜん思いつかなくて、本当は誠さんに内緒でプレゼント用意したかったんだけど……」  段々と声が小さくなりしょんぼりと肩が落ちていく。  カリカリのベーコンや鮭の皮はカリっとしてる方が好きだとか、意外と赤いウインナーが好きだとか目玉焼きにはソース派だとか、お風呂は少し温めがいいとかいーっぱいいーっぱい知ってるけど、でもどれもプレゼントになる物じゃなくて、だから教えて欲しい。  誠さんが本当に喜ぶ物を贈りたいから。  ちらりと誠さんを見るといきなり鼻先にちゅっとキスをされる。 「ひゃっ」 「七星」 「――へ?」 「俺が欲しい物はいつだって『七星』だから。七星の存在その物が俺にとって特別な贈りものなんだ」  そう言って眉尻をへにょりと下げて笑った。 「――!」  誠さんの答えに顔がぼわりと熱くなる。  嬉しいけど! でも今はちがうのー!  僕の様子に誠さんは「七星をくれないの?」なんて首を傾けて見せる。  ひゃー! もうもうもうもうーっ!  ぎゅーっと抱きしめ誠さんの胸に頭をぐりぐりと擦り付ける。  頭上から「可愛い……」って小さく呟いて笑う声がして耳まで真っ赤になる。  可愛いのは誠さんだからぁ――!  また僕が貰っちゃってるからぁ――!  誠さんの態度が、言葉が僕だけを愛してるって示してくれる。  市場価値が最低と言われた僕の事を求めて愛してくれる。  胸の中のモヤモヤが少しだけ晴れた気がした。  そしてまた何も決まらないまま一日が終わっていく。 *****  結局プレゼントを決められないままバレンタインデーの前日の夜になってしまった。  僕って本当ダメだなぁ……。  そっと溜め息をつくと誠さんが僕の額に手を当てた。 「七星? やっぱりどこか具合でも悪いのか? 少し熱もあるようだが、顔色も悪いし最近ごはんもあまり食べられていないだろう? 大丈夫って言うから様子を見ていたがこれだけ続くと心配だ。今からでも病院に行くか?」  確かに僕はここ数日胃がむかむかしたりで調子が悪かった。  何か悪い物でも食べたかな? 「七星? 本当に大丈夫か?」  ぼーっと黙り込む僕の顔を心配そうに覗き込む誠さん。  誠さんは優しい。  いつだって僕の事を考えてくれる。  対抗意識とかじゃなくてやっぱり誠さんに素敵なプレゼントを贈りたい。  胸の中に少しだけ残っていたモヤモヤした想いも完全になくなり、ただただ誠さんへの愛情だけが僕の中に残った。 「あのね、やっぱり僕誠さんに何かプレゼントしたい」  そう言ってじーっと誠さんを見つめていると誠さんは少しの逡巡の後、ふわりと笑った。 「なら明日一緒に買いに行こうか。ふたりで一緒に選ぼうじゃないか」 「――うん!」  誠さんとデートだ。へへ。  嬉しさが幸せが胸の奥から込み上げてくる。  やっぱり僕の方が貰っちゃってるね。 「じゃあ、今日はもう寝て、明日に備えよう」 「うん!」  何とかプレゼントのめどが立ち、元気よく立ち上がると目の前が真っ暗になって、くらりと世界が揺れた。  僕はそのまま誠さんの腕の中で意識を失ってしまった。 「七星っ!!!」
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