いとおしい

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 お見合い当日、俺は仕事で約束の時間を2時間ほど遅刻してしまった。  初めて会うのに遅刻してしまうなんて、相手に対して申し訳ないと思う。  愛情はないにしてもあちらに受け入れられたら、これから一生を添い遂げる相手だ。  精一杯の誠意は尽くすべきだろう。  2時間も遅刻して相手はもういないかもしれない、そう思いながらもできるだけ早足で歩く。  お見合いの場として押さえてある部屋のドアを開けると、登戸 七星は背筋をぴんと伸ばしひとりだけで座っていた。  目の前に置かれたお菓子や飲み物にも手を付けていない様子だ。  広い部屋にひとり。ただ座っていた。  2時間もの間ただ座って俺の事を待っていたのだろうか。 「――遅れてすまない……」  声をかけると七星は驚いたように立ち上がり俺の方を見た。 「登戸 七星れす!よろしくおねがいしまふっ!」 「…………」  慌てていたのか噛みまくりだ。  真っ赤な顔をして緊張しているのか動きがぎこちない。  見ていて可哀想になる程だ。 「知っているとは思うが、茅野 誠(かやの まこと)だ。本当に遅れてすまなかった。お詫びにこれを――」  途中で買った小さな花束を七星に手渡した。  七星は驚いた顔をして花束を受け取ると嬉しそうに笑い、「初めてです」と言った。  「何が?」と問えば、花束を貰ったのが初めてだという事だった。  だったらもっと大きいやつにすればよかったな。 「キミは2時間もの間何をしていたんだい?」  立ち話もなんだから七星に座るように促し、自分も七星の向かい側の席についた。 「え? 2時間も経ってたんですか? 僕こういうところ初めてで、絨毯の模様見てました。途中から楽しくなっちゃって時間忘れてました。へへ」  ――は?  これは……ミスったか?  いくらなんでも不思議ちゃんと一生を添い遂げるのは辛そうだ。  しかし、愛するわけでもないしそのくらいの事どうとでもなるだろうか。  んぅと眉間に皺が寄る。  そんな俺を見て苦笑いを浮かべる七星。  しまった、と思うがもう遅い。  遅刻した上にこんな反応は失礼極まりない。  七星に断られても仕方がなかった。 「僕って『変』だってよく言われます。だけど、『変』ってなんでしょうね?他の人と違ってたら『変』なんでしょうか? 僕は僕だし、他の人にはなれません。こんな僕では誠さんのお相手としては失格ですか?」  少し前の緊張して噛みまくっていた様子とは違い、とても穏やかで落ち着いた様子に驚く。  18歳という若さのせいなのか、捉えどころがない。 「――いや、俺の方は問題ない。キミは……七星は俺と番う気はあるか?」 「はい。僕は誠さんと番いたいと思います」  意志の強そうなしっかりとした眼差しだった。  こうして登戸七星は俺の新しい婚約者になった。
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