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さっそく両親に報告すると、両親の勧めで俺たちはその日のうちに一緒に住む事になった。
気が変わらないうちに、善は急げという事らしい。
よろしくお願いしますとペコリと頭を下げる七星の手には、少し大きめのボストンバッグひとつのみ。
後から残りの荷物が届くのかと問えば、これで全部だと言う。
いくらなんでも少な過ぎはしないか?
これでは殆どが学校関係の物しかないじゃないか。
まぁ必要なものがあればいくらでも買い与えてやればいいか。
不自由な思いはさせないつもりだ。
これから一緒に住む事になるマンションの七星の部屋に案内する。
俺の隣の部屋だ。
「ここが僕の部屋ですか? 大きいんですね…」
少し浮かない顔に見えるが、これでは狭いのだろうか?
まぁいずれ、番ったらもっと広い所に引っ越せばいい。
今は我慢してもらおう。
「あぁ、足りないものがあればこれを使うといい」
七星名義のブラックカードを渡してやる。
両親に報告した後、すぐに用意したのだ。
七星は少し驚いた顔をして、すぐにカードを胸に抱いて嬉しいのかどうなのか判断のつかない顔で笑った。
「ありがとうございます。大事にします」
「あぁ、自由に何を買ってくれても構わない。暗証番号はxxxxだ」
それは俺からの愛情の代わりだから。
俺からあげられるものはそのくらいだから。
気にせず使って欲しい。
「それで、だ。一緒に住むにあたって約束事をいくつか決めたいと思うのだが」
「はい」
俺があげた約束事は、
「『誰かと会う際は必ず誰と会うのか知らせる』『嘘はつかない』俺からの希望はこれだけだ。七星も何かあれば言ってくれ」
俺に隠れてこそこそと誰かと会わないで欲しい。
他に好きな人が出来たなら正直に教えて欲しい。
もう自分だけが知らない間に裏切られるのは嫌なんだ。
番ってしまえばΩである七星は俺から逃れる事が出来なくなる。
だから、俺から逃げたいのなら番ってしまう前にそう言って欲しい。
嘘や誤魔化しはもうたくさんなんだ。
「わかりました。僕が希望するのは、『どんなに遅くても必ずここに帰ってくる』『朝ごはんは出来るだけ2人揃って食べる』『行ってきますお帰りなさいのハグをする』です。どうですか?」
意外な提案だった。
それに心なしか先ほどの浮かない感じはどこかへ消え、嬉しそうにその提案をしてきた。
俺の一見独占欲ともとれるような約束事と違いこれではまるで本当に愛し合ってるふたりのようじゃないか。
金の為であれば俺が帰ってこない方が楽だろう。
食事だって好きでもない相手とでは気づまりだろう。
ハグに至っては苦痛ではないのか?
結花の時は手すら繋いだこともなかったというのに……。
俺に異存はないが本当にこんな事を約束してしまっていいのだろうか?
ちらりと七星の様子を伺えば、こっそりと見たはずなのに目が合い、にっこりと微笑まれた。
なんだろう。少しだけ鼓動が煩い。
俺は誤魔化すようにすっと視線を逸らした。
ハグぐらいなんて事はない。
そのうち番うためにセックスをする事になるのだし、その後も子作りをしなくてはいけない。
そう、ハグはそれに向けての練習だ。
七星の希望はできる限り叶えてやろうと決めたじゃないか。
「わかった。必ず守ると誓おう」
「僕も誓います」
こうしてちぐはぐな想いを抱えたままふたりの同棲(共同生活)は始まった。
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