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僕はΩだ。
だけど一般的なΩと違って容姿も特にいいわけでもないし、頭だって中の下くらい?で、目立った利点は何もなかった。
それだけではなく、周りからは『変なやつ』ってよく言われていた。
全てが平均以下のΩ。市場価値? は最低だとか。
だから両親には、「誰でもいいからαを捕まえて貰ってもらいなさい。番えさえすれば必ず幸せになれるんだから」と言われていた。
両親が僕の事をないがしろにするとか貶めるとかそういう事ではなくて、ただΩの将来を心配しての言葉だった。
だけど、αなら誰でもいいなんていうのはごめんだ。
番えば必ず幸せになれるって本当?
僕は僕だけの、僕の事を愛してくれる人がいいんだ。
これって贅沢かな? じゃあ、僕がその人の事を愛する事にしよう。それならいいよね?
大事にだいじにその人だけを愛すんだ。
αとかΩとか僕は関係ないって思ってる。
ただ愛する人がいれば、それだけで人は幸せになれると思うから。
番になるのはその先のおまけみたいなものだよね。
早く会いたいな。
僕が愛したいと思える人に。
*****
ある日迷子になってたお爺ちゃんを助けたんだ。
そしたら孫とお見合いをしてみないか、なんて言われた。
そのお爺ちゃんの優しい瞳を見て、この人の孫なら僕が愛したいと思えるかもしれないと思って、OKしたんだ。
すぐにお見合いの日取りが決まって、言われた場所に行ってみたらすごく立派なホテルだった。
通された部屋も立派で、緊張でドキドキしっぱなしだった。
もうすぐ来るかな?もう近くまで来てるかな?
緊張しながらもワクワクしながら待ってた。
目の前に置かれたお茶にもお菓子にも手を付けなかった。
だって、先に食べちゃうのは悪いと思ったから。
相手はお仕事の後に僕の為に来てくれるんだから我慢しなきゃ。
そのうち、ぼーっと見ていた絨毯の模様が面白い事に気が付いた。
あれ? あそこ犬が逆立ちしてるみたいに見える!
あ、あっちは羊? 猿までいる!?
あれあれ? 犬と猿ってけんかしない???
あはは、絨毯も高級になるとこういうおもしろい仕掛けがしてあるのかな?
時間を忘れて絨毯の模様の中に動物を見つけるのを楽しんでいた。
そしていつの間にか開かれた扉から現れた素敵な人。
どこかの国の王子様が現れたのかと思った。
「――遅れてすまない……」
その人から発せられた声も素敵で、意識を夢の世界に飛ばしそうになったけど、なんとか自分が今置かれている状況を思い出す。
急いで立ち上がり自己紹介をする。
「登戸 七星れす! よろしくおねがいしまふっ!」
慌てすぎて噛んでしまった。恥ずかしくて死にそう。
その人もびっくりした顔で僕の事を見ていた。
「……」
どうしよう……。僕、失敗しちゃった……。どうしよう……。
「知っているとは思うが、茅野 誠だ。本当に遅れてすまなかった。お詫びにこれを――」
そう言って差し出された小さくて可愛い花束。
こんなプレゼントは初めてだった。
震える手で受け取り、そっと抱きしめる。
温かな色使い。優しい香り。
嬉しくてうれしくて泣けてくる。
あぁ、この人だ。
僕はこの人を愛したい。
この人だけを愛したい。
こんな僕だけど、あなたの、あなただけのΩにしてくれますか?
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