いとおしい

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 俺はバカだ。  裏切られた。  何が貰い手のなさそうな人だ。  何が誰の事も好きにはなれないだ。  何が他に好きな人が出来たなら正直に教えて欲しいだ。  何が俺から逃げたいのなら番ってしまう前にそう言って欲しいだ。  あの子を可愛いと思っていたくせに!  あの子を好きになっていたくせに!  あの子が欲しいと思ったくせに!  あの子をもうすでに手放す気なんかなかったくせに!  全部ぜんぶぜんぶぜんぶ!  嘘ばっかりだ!  俺が一番―――――嘘つきだ。  今からでも七星の項を噛んで閉じ込めて俺だけのものにしてしまおうか。  そんな危険な考えが浮かんでは消えてを繰り返す。  ――――いや……俺はあの子の七星の笑顔が好きなんだ。  無理やり囲い込んでもあの子が笑っていなければ意味がない。  あの子の身体だけが欲しいわけじゃない。心が欲しいんだ。  俺がαで七星はΩであるけれど、αがΩの頂を噛んで番になる。  そんな事よりも七星の笑顔の方が俺には大事だと思えた。  なんだ。と思った。俺には七星の笑顔が全てじゃないか。  七星が俺じゃない誰かといるのが幸せだというならそれでいいじゃないか。  なんだかおかしくなった。 「はは……ははははは」  笑いながら泣く、こんな姿を七星が見たら「器用だね」って笑うのかな。  七星にかかればどんな事でも『不思議』『楽しい』になってしまう。  俺の七星。  愛しているからキミを俺から解放してあげるよ。  囚われ続けた10年間。  好きな相手が幸せならそれでいい、10年かかって初めて抱く想いだった。
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