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この世界には男女の他にそれぞれにα、β、Ωと6種類の性が存在していた。
αは全ての頂点であり全てを導き支配する者。
βは一般人。
Ωは庇護対象であるがその性ゆえに軽視され、ヒートによる望まない性交、妊娠及び番関係を結び一方的にαが解除するという被害を受ける事が多かった。
*****
俺には婚約者がいた。
俺はαで婚約者はΩだった。
本人たちの意思など関係なく、二次性が分かった時点で決められた婚約者だった。
それでも俺は婚約者の事を大事にしていたし、大好きだった。
αである自分がΩである彼女を守らなくてはいけないと思っていた。
毎週のように一緒に出掛け、笑い合い色んな話をした。
バレンタインには手作りチョコを貰い、ホワイトデーにはお返しをした。
事あるごとにプレゼントをして、彼女は笑顔でそれを受け取ってくれた。
何をしていても楽しかった。彼女の笑顔を見ているだけで楽しかった。
婚約してから一度も性的な意味で彼女に触れる事はなかった。
婚約者といえど、高校を卒業するまでは大事にしたかったから。
キスさえもした事がなかった。
高校を卒業すると同時に番い、結婚する予定だった。
なのに……あの日俺は何を見てしまったのか、すぐには分からなかった。
大事にしていた婚約者結花の細く白い首に浮かぶつけられたばかりの番の印。
己の番を抱きしめて牙をむき俺から必死に守ろうとする親友だった男田島 五郎。
俺は最も心を許した二人から裏切られていた。
ふたりは幼馴染だったということだ。
小さい頃から好きあっていたのに、うちと結花の親同士が勝手に俺との婚約を決めてしまったのだという。
最初はふたりはお互いを諦めようとしたらしい。
結花の家は俺の家の援助を欲していたし、五郎の家は結花の家を援助できるほど裕福ではなかったから。
だけど、どうしてもダメだったと。
どうしてもお互いじゃないとダメだったんだと。
そんな事を聞かされて俺はどういう顔をすればいいんだ。
好き合っていた二人を引き裂こうとしてごめんなさい?
何も知らない俺をだましてさぞや愉しかっただろうな?
自分でも制御できない怒りで我を忘れ、五郎に殴り掛かろうとした時、守られていたはずの結花が五郎を庇った。
それを見た瞬間、俺はもうどうでもよくなった。
何もかもがどうでもいい。
そして俺の世界から匂いが失われた。
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