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《黄泉出現! 天忍班ただちに現場へ急行してください!》
コーディネーターの出動要請を受け、『ヤタガラス』に装備された4発の傾斜式噴流推進器に火が入る。ターボファンが奏でる甲高い回転音と共に、ノズルの先端からコバルトブルーの炎が咆哮を上げる。
特殊な耐熱コーティングを施した高層ビルのヘリポートに、冷たい夜風が吹き通る。
「天忍班、点呼ぉ!」
葛が暗い荷室で声を張った。
「柏兄ぃ、早く乗って! 行くわよ!」
サイドハッチのハンドルに手を掛けてグルグルと手を回す女性隊員に呼ばれ、一際大柄な男が慌てて機内に飛び込む。
「おお、済まんな。何しろ『中』は待っているにゃぁ小狭ぇからよ!」
『柏兄ぃ』と呼ばれた男が荷室に飛び込むと同時に、サイドハッチがガチャン! という大きな音と共に閉じられる。そして。
「支援、住吉葵!」
さっきの女性隊員が点呼の端を切る。
「重砲手、住吉柏ぁ!」
193センチ、130キロという巨体を誇る柏の横では、妹である葵の身体はことさら華奢に映ってしまう。
「……軽砲手、井氷鹿彩芽」
葛の真横に座る長身細身の女が柏に続く。
「操手、鳥之石楢彦!」
出発前の最終チェックを続けながら、操縦席に座る男が応える。
そして、残るは一人。
「班長兼重砲手、天忍葛! 以上、天忍班5名搭乗完了、準備よし!」
《了解。天忍班、出撃してください》
間髪入れずに返ってくる出撃許可と同時にジェットの噴流が勢いを増す。
「発進!」
鳥之石の掛け声と共に、対・黄泉用に開発された漆黒の戦闘機『ヤタガラス』が夜空へと舞い上がった。
月の見えない空の下、高度を稼いでからジェットノズルを下方から後方に回転させ『目的地』へと弾けるように突き進む。市街地戦闘用に特化した全長6.2mの小柄な機体が街の明かりの間を抜けていく。
――アマテラスが、捕獲されていた研究所から『遺失』して3年。
帝都では、アマテラスによって『作られた』と思われる『ゾンビ』が街中で暴れまわる災害が多発していた。
それがどういう方法なのか目撃者が居ないので定かではないが、とにかくアマテラスは何らかの方法で人間をゾンビに変貌させる。
そして、ゾンビ化した人間は他人を『食って』しまう。これが『第一症状』だ。
いや、犠牲になるのは人間だけではない。
それが犬であれカラスであれ、動物なら見境なく『取り込んで』しまう。それも手当たり次第だ。
無論、取り込んだ事で質量は増大するが、暫くの間は『見た目の大きさ』を維持出来るようだ。だが、それでも限界はある。
一定以上に『取り込む』と、ある時に突然『巨大化』を起こすのだ。しかもその姿形は人間の『それ』を留めることなく、完全に『怪物化』する。これが『巨大化症状』である。
アマテラスに襲われたこの哀れな犠牲者は、もはや『人間としての生』を残してはいないが、さりとて『死者として沈黙』もしていない。
そのため、彼らは『黄泉平坂を彷徨うもの』という意味を込めて『黄泉』と呼ばれているのだ。
政府はこの黄泉と、オリジナルであるアマテラスを『駆除』すべく、国を挙げての特殊部隊を結成した。
それが、『超未確認凶暴生物及び、その付随する刺客に対抗する国家的手段による部隊《Super Unknown Savage and Assassin National Operation Unit》
通称・SUSANOUである。
アマテラスや黄泉が跋扈する帝都は高層ビルが立ち並ぶ大都市だ。人間の密度もさることながら、これだけ建造物が多ければ追手から身を隠すにしても便利なのだろう。
だが、『駆除する側』としては頭の痛い問題である。
唯でさえ地上からのアクセスは渋滞の問題がある上に、黄泉が出現した周辺は概してパニックになっているから、現場到着は更に難易度を増す。
そのため、葛達のような各班は担当する地区ごとに近隣のビルの屋上にヤタガラスを待機させ、緊急事態の通報と出撃命令に呼応して『何時でも飛び出せる』ようにしているのだ。
こうした緊急出動体制が確立出来た事で、黄泉の確認・通報から駆除班が到着するまでの時間は『目標』とされる5分30秒を切るにまで短縮されるようになっていた。
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