2.戦闘開始

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 『怪物』か……!  『記録(ログ)』を録られているので口に出して悪態を吐く事は出来ないが、葛は心の中で舌打ちをした。  人間に害する『化物』でありながら、その中身もまた『人間』。それを駆除という名目で殺す事に何かしらの躊躇もないと言えば、それは嘘になるだろう。  だが、それでも『駆除』するしか手はないのだ。  その脇では支援担当の葵が『別便』のジェット・ドローンで送られてきた装備の展開を始めていた。 「イザナギへ、こちら天忍班! フォーメーション準備よし!」  葛の報告に対し、直ぐに司令室から返事が返ってくる。 「こちらイザナギ、了解した。推定攻撃最適時間(ゴールデン・タイム)は残り43秒!」  いつも通りギリギリだな……。  葛は、黄泉の動きに全神経を集中させる。  過去の実績からして黄泉がフェーズ・ツーの状態に馴染むには、遷移してから5分30秒ほど掛かるらしい。  その間は動きも鈍く、攻撃するには最も最適な時間帯と言える。逆にその時間帯(ゴールデン・タイム)を逃せば、黄泉の駆除は一気に難易度が上がるのだ。  しかもだ。ただ単に『早ければ良い』というほど単純でもない。可能な限り『実害』が欲しい。そうしないと『無抵抗の相手を攻撃した』と非難される可能性があるから。  ガシッ……!  黄泉が傍にある信号機の柱を握りしめる。  黄泉にとっての慣らし時間(エージング・タイム)が終わろうとしている。  メキ……メキメキ……。  人間だった時とは比べ物にもならない怪力によって、信号機の鉄柱があたかもゴムで出来ているかのようにグニャリと曲がる。  ガフゥゥゥゥゥ……ッ!  黄泉が発する雄叫びは先程よりも確実に力強さを増し、その膨れ上がった両椀が更にパンプアップしたようだ。  ギロリ……と、黄泉が葛達を睨みつける。人類(こちら)を、明確に『敵』として認識したのだろう。  ……よし、今だっ!   「第一段階攻撃開始っ! 撃ち方、始めぇっ!」  この瞬間を逃すことなく、葛がヘルメットのインカムから指示を出す。  葛の合図で軽砲手の井氷鹿が、抱えていた対黄泉用のスピアガンを構える。銛突き漁師のそれと違い、強力な炸薬で鈎銛(スピア)を撃ち出す武器である。  これには『高伝導ワイヤー』が括り付けてあり、突き刺すと同時に手元のバッテリーから22000ボルトの高電圧電流を流す仕組みになっている……が。『やってはみるが効かないだろう』と分かっている攻撃だ。  『黄泉駆除が市街地が行われる』という意義は決して小さくない。そのため出来るだけ周囲に被害が出ないよう考えだされたのが、この『電撃』なのだ。  電流による麻痺で黄泉の活動を止められるなら、周囲の建物や道路等を壊したり隊員たちにも危険が及ぶ『爆殺』までしなくて済むと言えよう。    なるほど、確かに最初は電撃(それ)でどうにか仕留められもしたが、あっという間に対応されてしまい、電圧も当初の1000Vから6600Vに格上げされ、10000Vになり、22000Vまで引上げられ、尚も最近は『効果が薄い』。  だが『手順』として決まっている以上、それを省略する事はできない。  バシュ……!  井氷鹿が引き金を引くと、鋭い風切り音を立てながらチタンで出来たスピアが黄泉に刺さ……。 いや、。 「弾かれた?!」  黄泉の体表で大きく跳ねたスピアに、井氷鹿が叫ぶ。クロコダイル状の『表皮』が、スピアの貫通力を上回ったのだ。流石に『こんな経験』は初めてだ。 「まずい! 柏さん、すぐに『第二段階攻撃』を!」  葛が柏の方を振り返った先で、すでにロケットランチャーの砲口が黄泉の方に向けられている。 「任せろっ!」  続けざまに、今度は柏がランチャーの引き金を引く。これも対黄泉用に特殊改良された高熱反応弾だ。  バシュゥゥ……!  発射されたロケット弾が黄泉に向かって夜空を疾走る。目標が大きい分、外すリスクは少ないが……。  井氷鹿の「弾着ぁく!」の掛け声は隊員に『防御』を促すものだ。     ズドゥゥゥ……!  ロケット弾は間違いなく黄泉に着弾し、轟音と共に爆炎を上げたが……。 「やった……か?」  葛がその成果を確認しようと身を乗り出す。  だがその思惑に反し、黄泉は倒れていなかった。白煙のたなびく左肩近くに出来た『傷口』が見る見るうちに塞ぎ始めている。 「まさか……スピアどころかロケット弾が!」  井氷鹿が絶句する。 「ぐっ……っ! マジかよ! 着弾寸前で急所への直撃を避けやがった!」  柏が慌てて次弾を装填する。 「目標、沈黙せず! 敵損害軽微にて、自己修復進行中!」  葵が無線に向かって怒鳴りながらイザナギに状況の報告を入れていた。
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