act1

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Side 香奈 本当は来たくなかった。 社内で一番仲の良い同期の結婚式だというのに。 頼まれていた披露宴の受付と同期女子たちとの余興を作り笑顔で何とかこなして、今は二次会会場のイタリアンダイニングにいる。 「それではみなさん、しばしご歓談くださーい」 景品争奪のゲームが終わり、それぞれ自由に盛り上がっている。 今日の主役である萌は、学生時代の友達と思われる女子たちに囲まれ、楽しそうに写真を撮り合っている。 私―深山香奈(ミヤマカナ)は、店の壁際の席からその光景をぼんやり眺めていた。 披露宴の真っ白なウェディングドレス姿も綺麗だったけど、今の萌もとても綺麗だ。 シャンパンゴールドのパーティードレスが萌の雰囲気によく合っていて、萌を一層キラキラさせている。 私の着ている黒いロングドレスも光沢のあるシルク地のものだが、なんだか重苦しい感じがして、いたたまれない気持ちになる。 幸せに満ち溢れた萌は、私にはまぶしすぎて目が眩む。 『香奈の方が先に結婚すると思うよ』 前によく萌はそう言っていた。そして、自分でもそんな気がしていた。 でも実際は、違った。 藤代(フジシロ)、じゃなくて、今日から市井萌(イチイモエ)は、新入社員の研修のとき同じグループで仲良くなった。もう10年の付き合いになる。ちなみに新郎のイッチー、市井直樹(イチイナオキ)も、同じグループにいた同期だ。 萌とイッチーは7年の交際期間を経て、今日式を挙げた。『結婚に縛られたくない。一人の方が気楽で楽しい』と口癖のように言っていた萌を、イッチーが必死に口説いた。
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