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Side 香奈
相良さんに『お話したいことがあります』と連絡したら、『平日は残業で時間が取れない』と返信がきたので、相良さんのジムの手伝いがない日曜の午後に会うことになった。
待ち合わせ場所は、お互いの家から中間くらいの駅にあるカフェにした。
カフェに着くと、ちょうどお店の前で相良さんと会った。
「ピッタリですね。入りましょうか」
今日も相良さんはいつもと同じ穏やかな顔をしている。
店内に入り、ちょうど空いていた窓際の席に決めて、カウンターでコーヒーを買い席に着く。
「すみません、仕事が急に忙しくなってしまいまして……」
相良さんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、こちらこそ、お忙しいのに時間作っていただいて。それで、あの……今日は……」
早速、話を切り出すつもりが、
「深山さん、前に結婚相手への条件について話をしたとき、『信じられる相手がいい』って言ってましたよね?」
と、先に相良さんが話を始めてしまった。
また急にそんな内容の話をされ、訳が分からないまま返事をした。
「はい……」
「俺のことは信じられますか?」
「えっ?はい、もちろん!」
相良さんは信じられる。誰だって初めから信じられない相手とは付き合わないと思うけど……相良さんは、会って間もないうちから誠実さを感じることができた。だからこそ交際を考えた。
すると、相良さんが私をまっすぐ見つめて言った。
「俺は深山さんのこと信じていいですか?俺だけ見てくれていると」
相良さんの鋭い指摘に一瞬言葉を失った。
我に返り、私は頭を下げた。
「すみません!私……相良さんとお付き合いすることはできません!ごめんなさい!」
――『信じられること』を相手にだけ求めて私は……なんて勝手なことしてたんだろう。
「……やはり、そうでしたか……今日は深山さんから初めて誘われたので、もしかしたら、とは思っていたのですが。当たってしまいましたね」
相良さんは少し悲しそうな顔で笑った。
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