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「俺のことをもっと知りたいと言ってくれたとき、とても嬉しかったです。でも、色々話をしているうちに、深山さんが俺とのことを無理して考えているような気がし始めたんです。本当は、さっきの質問も何度か言いかけたんですが、言えないままでいました」
相良さんは食事をするとき、いつも楽しそうに私と話をしてくれた。私も一緒に楽しんでいたつもりだった。
でも、相良さんは気づいていたんだ。
それなのに、私は返事をしないまま食事に行って………相良さんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「『信じられる相手なら』と深山さんが話をされたとき、あまりにも思い詰めた表情をされていたので、何かあるのでは、と思っていました。それに、涙を流していたことも……ずっと気になっていました。でもなぜか、深山さんには聞いてはいけないような気がして。それで昨日、ジムに来ていた桐野さんに聞いてみたんです。桐野さんは初め話したがらなかったんですが、俺が『深山さんが無理して俺を好きになろうとしている』と言ったら、少しだけ話をしてくれました」
キリからはまだ何も聞いていなかった。
そっか、キリ、相良さんに拓海の話をしたんだ……
「『信じられる相手がいい』と言ったことと、涙を流していたことは関係していたんですね」
「……はい。実は以前、付き合っていた人を信じられなくなってしまって……」
私は相良さんに拓海のことを話した。
「再会して気持ちが揺れたんですけど、不安に飲まれたことを思い出したら怖くなってしまい、彼とはやり直せないと……今度こそ終わらせたつもりでした。泣いてしまったのはその頃です。あのとき相良さんにそばにいてもらって、気持ちがとても落ち着きました。それで、『相良さんとなら、ずっと安心して過ごせるのでは』と考えるようになりました」
相良さんは、私のことを見守るように黙って話を聞いてくれている。
「でも、私の中で終わってなんていなかったんです。今の彼の想いを知って、自分の気持ちにやっと気づきました……」
私は、まっすぐ相良さんを見た。
「私、自分のことばかり考えて、相良さんを振り回すようなことをしてしまいました……本当にすみませんでした」
そして、再び深く頭を下げた。
「いえ、今回のことは急ぎ過ぎた俺も悪かったので。反省しています」
相良さんが苦笑した。それから少しして、ぽつりとつぶやくように言った。
「不安、ですか……」
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