act6

35/52
前へ
/385ページ
次へ
*** 相良さんと最後に会った日の翌日、私はキリに謝られた。 「河瀬さんの件があってから、私、余計な事しちゃいけないと思ってたんですけど、相良さんから、香奈さんが無理しているって聞いて……ごめんなさい!」 キリがとても申し訳なさそうに謝るのを見て、私も申し訳ない気持ちになる。 「キリ、いつも心配してくれてありがとう。私の方こそごめんね……あーあ、後輩に心配ばかりかけて。ほんと頼りない先輩だよね」 「えっ!全然そんなこと……」 キリが何度も首を横に振る。 「でも、もう私、自分の気持ちに嘘つかないことにしたよ。だから大丈夫」 キリの目を真っ直ぐ見て私は言った。 「香奈さん……」 キリのホッとしている顔を見たとき、私は思わずキリを抱きしめた。 「キリ―、ありがとねー!」 すると、キリが、 「給湯室でこんなことしてるの見られたら、変な噂流れちゃいますよ」 と、いたずらっぽく笑って言った。 * こんな良い後輩がそばにいてくれて、感謝しかない。 私、もっとしっかりしなきゃ! と、PC画面を見ると、外出時間を知らせるアラームが表示されていた。 「あ、いけない!」 今日は、トラブル対応で動きがとれないキリの代わりに、久しぶりにM社へ訪問することになった。 佑太はいないけど、橋本さんはいるよね…… もう会うつもりはなかったけど、あの後どうなったのかは少し気になっていた。 私は複雑な気持ちで、M社に向かった。 M社に着き、会議室に通された私は、席に座って待っていると、システム部の方々が会議室に入ってきた。 私は立ち上がり挨拶をする……と、最後に橋本さんが入って来た。 「えっ!」私は思わず声が出そうになった。 佑太と3人で話をしてから、2ヵ月ぶりに見た橋本さんは、全く別人のようだった。 2カ月前の橋本さんは、蒼白く疲れた表情をしていて、瞳も揺れていた。 でも、今目の前にいる橋本さんにはその面影は全くなく、明るく活き活きとした表情をしている。 橋本さんは、私を見て微笑んだ後、頭を下げた。 かなり動揺してたけど、私は平静を装って頭を下げた。 でも、それから始まった打ち合わせは、身が入らないまま終わってしまった。 PCをバッグに入れ、帰る支度をしていると、橋本さんに声をかけられた。 「深山さん、今、お時間ありますか?」
/385ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5609人が本棚に入れています
本棚に追加