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相良さんと最後に会った日の翌日、私はキリに謝られた。
「河瀬さんの件があってから、私、余計な事しちゃいけないと思ってたんですけど、相良さんから、香奈さんが無理しているって聞いて……ごめんなさい!」
キリがとても申し訳なさそうに謝るのを見て、私も申し訳ない気持ちになる。
「キリ、いつも心配してくれてありがとう。私の方こそごめんね……あーあ、後輩に心配ばかりかけて。ほんと頼りない先輩だよね」
「えっ!全然そんなこと……」
キリが何度も首を横に振る。
「でも、もう私、自分の気持ちに嘘つかないことにしたよ。だから大丈夫」
キリの目を真っ直ぐ見て私は言った。
「香奈さん……」
キリのホッとしている顔を見たとき、私は思わずキリを抱きしめた。
「キリ―、ありがとねー!」
すると、キリが、
「給湯室でこんなことしてるの見られたら、変な噂流れちゃいますよ」
と、いたずらっぽく笑って言った。
*
こんな良い後輩がそばにいてくれて、感謝しかない。
私、もっとしっかりしなきゃ!
と、PC画面を見ると、外出時間を知らせるアラームが表示されていた。
「あ、いけない!」
今日は、トラブル対応で動きがとれないキリの代わりに、久しぶりにM社へ訪問することになった。
佑太はいないけど、橋本さんはいるよね……
もう会うつもりはなかったけど、あの後どうなったのかは少し気になっていた。
私は複雑な気持ちで、M社に向かった。
M社に着き、会議室に通された私は、席に座って待っていると、システム部の方々が会議室に入ってきた。
私は立ち上がり挨拶をする……と、最後に橋本さんが入って来た。
「えっ!」私は思わず声が出そうになった。
佑太と3人で話をしてから、2ヵ月ぶりに見た橋本さんは、全く別人のようだった。
2カ月前の橋本さんは、蒼白く疲れた表情をしていて、瞳も揺れていた。
でも、今目の前にいる橋本さんにはその面影は全くなく、明るく活き活きとした表情をしている。
橋本さんは、私を見て微笑んだ後、頭を下げた。
かなり動揺してたけど、私は平静を装って頭を下げた。
でも、それから始まった打ち合わせは、身が入らないまま終わってしまった。
PCをバッグに入れ、帰る支度をしていると、橋本さんに声をかけられた。
「深山さん、今、お時間ありますか?」
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