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「それなのに、河瀬には会えなかったの?」
「うん……私が会社に戻った時には、外出しちゃってその後戻ってこなかった」
「あー、もう!なんでこんなタイミングで忙しくなってんの、河瀬は!」
と、萌が嘆いた。
せっかく急いで会社に戻ったのに、拓海はいなかった。急遽クライアントに呼び出され外出したらしい。
拓海は、私が帰る時間になっても戻ってこなかった。
今日は萌の家に泊まることになっていたので、私は拓海に会えないまま会社を出た。
そして今、萌に拓海とのこれまでの話をしていたところだ。
『やっぱり拓海とやり直したい』って話したとき、萌に怒られる!と覚悟していたのに、萌は目を潤ませて喜んでくれた。
「ねぇ、明日休みなんだし、『明日会いたい』って連絡すればいいじゃない?」
「でも、休日出勤かもよ?仕事忙しいって分かってるのに、こんなことで仕事の邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「こんなこと、じゃないよ!あ、イタタタッ」
萌が大きなお腹をさすっている。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫。痛くなることたまにあるんだよね」
「でもさっきから痛そうにしてるし……大丈夫なの?」
部屋の時計を見ると22時を過ぎていた。
萌は食事を終えた3時間位前から、何回もお腹が痛いと言ってはソファーで横になっていた。
「うん。陣痛じゃなくてもこういう風に痛くなったりするらしいよ」
「そうなの?でもなんか心配」
「さすがにまだ出てこないよ。大丈夫」
と、萌は笑って答えた。
今日、私が萌の家に来たのは、イッチーに『ウチに泊ってほしい』と頼まれたからだ。
イッチーは今日、出張で札幌へ行っている。明日の朝の飛行機で戻って来るそうだ。
『出産予定日まであと2週間あるけど、心配だから萌の側にいて欲しい』と言われたんだけど……
「直樹は心配しすぎなんだよ」
と、萌がため息をついた。
「まだ2週間も先なのにさ。それに、初産ってどちらかというと予定日遅れるって言うし……ごめんね香奈、わざわざ来てもらって」
「ううん。私は全然。萌と話したかったし」
「この出張、最初は来週の予定だったのに、うまく今週に調整したみたい。それも『金曜になった』って嬉しそうだったよ」
「ん?金曜?どうして金曜?」
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