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「そうだ!今から河瀬に……あっ、ごめん、ちょっとトイレ……」
「えっ!萌?」
突然、萌はお腹をおさえ、トイレに行ってしまった。
萌が心配で落ち着かない私は、トイレの前の廊下で待つ。
それから少しして、萌が苦しそうにしてトイレから出てきた。
「破水したっぽい……大丈夫じゃないかも……」
「えっ?破水?」
萌は顔をしかめながら、首をかしげた。
「たぶん……病院に電話してみる」
病院から『急いで来てください』と言われたと聞き、
「じゃ、た、タクシー呼ばなきゃ。それとも救急車?あっ!イッチーに連絡!萌、お母さんは?お母さんなら都内だからすぐ来てもらえるんじゃ……」
私が一人で慌てふためいていると、萌が、「香奈、落ち着いて」と私に言った。苦しそうなのに、少し笑っている。
「そ、そうだね、ごめん」
大変なのは萌なのに、私が取り乱してどうする……
「陣痛タクシー登録してるから、呼べばすぐ来てくれると思う」
と言って、萌が電話をかけた。
陣痛タクシーなんてあるんだ……
と耳慣れない言葉に気を取られているうちに、萌はイッチーにも電話したようで、
「直樹が電話に出ない」
とため息をついた。
私もイッチーに電話してみるけど、やっぱりつながらない。
「今、直樹にメッセージ送ったよ。もし、後で直樹から連絡きたら、状況説明してもらってもいい?……お母さんは呼ばなくていいから……夜中だし」
「でも……」
「私は、香奈がいてくれれば大丈夫」
萌は苦痛に耐えながら、私に笑ってみせた。
「それより、寝室に、入院セットが入った大きなバッグあるんだ。持ってきてもらってもいい?」
萌に言われて、寝室から大きなトートバッグを持ってきた。
「ちゃんと準備してたんだね」
「直樹に『準備は早いに越したことはない』って言われて……直樹、正解だね」
……どこまでも気が利くイッチーに、ただただ感心するばかりだ。
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