5611人が本棚に入れています
本棚に追加
それから間もなくして、タクシーの迎えが来た。
私は、よろめく萌を支えながら、どうにかタクシーに乗った。
萌は、顔をゆがめて苦しそうに息をしている。
私はそんな萌の肩をさするくらいしかできない。
――萌も赤ちゃんも大丈夫だよね?
これが陣痛なのか、それとも何か良くない痛みなのか?
あまりにも辛そうな萌に、とても不安になる……
ブーッブーッと、スマホが振動し始めた。イッチーからの電話だ。
電話にでると、
『萌に電話しても出ないけど、萌は?萌大丈夫なの?』
イッチーの動揺した声が耳に響いた。
「それが、私もよく分からなくて……今タクシーで病院に向かってるよ」
と、話してる途中で、「もうすぐ病院着きますよ」と運転手さんに声をかけられた。
「あっ、病院に着いたから!後でまた連絡するね!」
『えっ?もしもし、みやまー……』
イッチーが何か言いかけてたけど、私は電話を切った。
病院に着くと、萌は、看護師さんたちに車椅子に乗せられ、急いで分娩室へと運ばれて行った。
私は、分娩室前の廊下の長椅子に座って待つことにした。
夜間の病院は照明が減らされて薄暗く、なんとなく心細い……
イッチーには、『分娩室に入った』とメッセージを送った。
でも、『初産は予定日より遅れがち』って聞くのに、2週間も早くて大丈夫なの?
という不安が頭をよぎる。
助産師さんらしき声はたまに聞こえてくるけど、何を言っているかまでは聞こえず、状況がよく分からない。
――萌頑張って!赤ちゃん無事生まれてきて!
目を瞑り、組んだ両手に額を当て、ただ祈り続けた。
それから……どのくらい時間が経ったのか?
コツコツと廊下を歩く足音が聞こえてきた……と思ったら、私の前で止まった。
そして、
「香奈……」
と、ずっと聞きたかった声が上から降って来た。
「え……どうして……」
顔を上げると、拓海が優しいまなざしで、私を見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!