act1 closing 「初夜」

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萌の両親は、父親が大手の銀行に勤めるエリートで、母親は専業主婦をしているが、母親が父親からひどいモラハラを受けているという。 初めは、父親の母親に対する態度をなんと言ったらいいのか分からなかったらしいが、大きくなって「モラハラ」という言葉を聞いたとき、「これだ」と思ったそうだ。 俺と話をしているときのお義父さんは、とても穏やかで優しい人にしか見えない。今も、娘の門出を温かく見守る花嫁の父、みたいな顔で席に座っている。 けど、萌が言うには「それは表の顔」だそうだ。家の中に家族しかいなくなると、一気に不機嫌そうな表情になり、態度が豹変するらしい。 そして萌も……両親を前にすると笑顔が消える。全く笑わなくなる。俺は萌の実家に行くとき、自分がお義父さんに会うことより、萌がお義父さんに会うことに緊張してしまう。 本当は、萌のために結婚式は二人だけでするつもりだった。けれど、お義父さんの結婚の条件は『ちゃんと披露宴をすること』 それからは言うまでもなく、揉めに揉めに揉め……「親子の縁を切る」と言い出す萌を何とか説得し、どうにかこうにか準備を進めた。 なので、今日はバージンロードを萌とお義父さんが並んで歩いてくるのを見た時が、一番緊張した。笑顔で歩く二人を見て、安心したのと同時にちょっぴり怖くも感じたなんて、誰にも言えない。
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