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「河瀬、取り入るのとか得意だもんね……戻ったらマネージャーになるらしいよ。どこの部署に行くのかは分からないけど。うちらのなかで河瀬が出世頭か……ま、予想はついてたけどさ」
マネージャーは、うちの会社では課長職に相当する。
32歳でマネージャー……同期の中で一番早い昇進だ。
「香奈は大丈夫?」
萌が窺うように私を見ている。
萌には結婚式の夜のことを言えずにいた。
拓海と一緒に過ごしたなんて知ったら、「あんなヤツに関わっちゃダメ」って怒るだろうな。
でも、こうして前と同じように萌と話ができるようになったのは、あの夜のおかげだと思う。
お互いぎこちなかったメッセージのやり取りも普通に戻ったし、二人で誕生会をしたときも、結婚式とか新婚旅行のことを笑って話ができた。
そして、萌から「妊娠した」と聞いたときも……
今妊娠3か月だそうだ。つわりがないらしく、萌は今目の前で美味しそうにごはんを頬張っている。
あの夜、一人で消化できなかった感情を拓海の前で言葉にしたら、とげとげしていた気持ちが和らいだ。
拓海が泣いてる私を優しく包んでくれた……素肌で直接感じる体温がとても心地良かった。私が眠るまで、ずっと頭をなでてくれていたような気がする。
大きな手の感触と拓海の心音を聞きながら寝たら、久しぶりに熟睡できた。
あの夜に私はとても救われた。救われたけど……
拓海とはあれっきり、にしたい。
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