0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
『穢れを知っているから、私たちは美しいものを美しいと思えるのだ』
ふと、どこかの有名人が、そんなことを言っていたのを思い出した。
このネオン街の真ん中に立っていると、その名言らしきものが前触れもなしに頭を過ぎる。
スナックやバー、ナイトクラブ、それらを彩る電飾看板に、明滅を繰り返す古びたイルミネーション。
空を見上げれば視界は高層ビルに遮られ、隙間から見える暗闇はいつも白んでいる。
通称、“眠らない街”。
ここで私は生まれ育った。
煌々と輝く人工的な明かりに相反するように、雑踏を歩く人々は皆暗い顔をしていた。かく言う私も、そのひとりだ。
もう随分と昔から、私は家出を繰り返している。
それは癖のようなもので、隣を歩く恋人が毎日変わることもまた、私の悪い癖だった。
私はまたあの言葉を思い出していた。
だが、その真偽を問うとすれば、それはきっと偽りだろう。
人は汚れなど知らなくていい。知る必要など、どこにもないのだから。
汚れに対して無知だったとしても、美しいものを目の前にすれば、人は感動出来るのだから。
生まれてこの方、心を揺さぶるほどの何かに出会えたこともない私は、そう思う。
最初のコメントを投稿しよう!