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第一話:遭逢
暴かれない犯行、消えた被害者、隠された証拠、謎めくトリック。
被害者と言う存在は“行方不明者”と見做され、一般人に紛れた犯人は『平々凡々たる』人生を生きていく。
その完成された犯罪の一部始終を見届ける事が出来るのは、――――読者の特権である。
本を閉じ、思わず溜め息を吐く。
完全犯罪をテーマに執筆された小説は、決して幸せとは言えない虚無的な毎日を送る託夢にとって、大変刺激的だった。
ヒヤリと肩を竦める序盤も、バクバクと鼓動が駆ける中盤も、ゾクリと背筋が凍るような終盤も、一文を追うたびに体内の血が騒ぐのだ。
余韻に浸りながら、ふと見遣った時計が、23時を指している。
あと一冊、読める。
託夢は気も漫ろに、席を立った。
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