11人が本棚に入れています
本棚に追加
初めて会った時のことが、とっても懐かしいなぁ。
でもね、正直にいうと、ぼくはきみのことが嫌いだったよ。
きみはサルみたいに真っ赤な顔をして、大きな声で泣いていた。柔らかくて小さな体のどこからそんな声が出るんだってほど、大きな声で、世界に向けて抗議していた。
ぼく、実は初めは、きみのおかあさんのものだったんだよ。
きみのおかあさんは、ぼくを雑貨屋さんで見つけてくれたぼくの恩人。ひっそりと棚の陰に隠れていたぼくを、この広い世界に連れ出してくれたんだ。
あの頃はまだ、きみのおかあさんも、お化粧すらしてなかったなあ。真っ赤な林檎みたいなほっぺでぼくを抱き締めてくれた。
結婚してから、なんだか綺麗になっちゃって、それに反比例するようにぼくは埃をかぶっていた。
「あーちゃん、泣かないで」
そう言って、きみのおかあさんは、ぼくのことをきみに差し出したんだ。
嘘だろ。ぼくは真理子のものなのに。
嫌だ、渡さないで。
必死で願ったけれど、3秒後に、ぼくの手にふにゃふにゃの小さな指が触れた。
ぎゅう、と力強く握られる。
痛いよ。
そう思いながらも、その強さに、泣き出しそうになったんだ。久しぶりに、必要だよって言われた気がして。
そうしたらきみは、ぼくのことを涙で濡れた大きな瞳でじっとみつめて、ひまわりみたいに笑ったね。
そのときの笑顔は、今でも、ずっと胸の中にあるよ。
最初のコメントを投稿しよう!