あーちゃん、あのね。

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 ふと気がついたら、きみは、幼稚園の水色のスモックを脱いで、おじいちゃんとおばあちゃんに買ってもらった真っ赤なランドセルを背負うようになった。  あっという間に大きくなって、ぼくを抱き締める腕も強くなって。    あるとき、ぼくの足の付け根がやぶれちゃったんだ。 「ぐれい」  必死で泣いてしまわないように我慢するきみは、下唇を噛み締める。そんなに強く噛み締めたら、切れちゃうよ。  大丈夫だよ、ぼくは痛くも痒くもないよ。だからさ、そんなに泣きそうにならないで。 「わたしが、直してあげるね」  その言葉に、ハッとした。  あーちゃん、きみはもう、赤ちゃんじゃないんだね。  辛いことも、哀しいことも、ちゃんと自分で乗り越えていかなきゃいけないんだね。  がんばれ。がんばれあーちゃん。  一粒だけ零れた涙をこぶしで拭って、ぼくのことをそっと抱きしめて、きみは凛とした瞳で、前をまっすぐ見ていた。  その後、きみはおぼつかない手で、ぼくの足を縫い合わせてくれたね。  そのときの白い糸は、ぼくの灰色の体からは浮いているけど、それもちょっとだけ嬉しいんだ。  だってこれは、あーちゃんが自分でぼくを直した証。きみがぼくとずっと一緒にいた、軌跡。  だからさ、ぼくにとっては勲章だよ。 「できたよ、ぐれい」  直してくれてありがとう、あーちゃん。 「どういたしまして」  そう言ったあーちゃんは、ぼくに笑いかける。  どくん。ぼくにはないはずの心臓が脈打つ音が、確かに聴こえた。
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