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04 ある朝の【雪橋】
ベッドの上に座ったまま、ぼんやりとコーヒーを飲む理玖さん。
寝癖で少し跳ねた黒い髪と、朝日に溶けそうな白い肌。
マグカップを両手で包み込むように持って湯気を「ふーっ」と吹く様は、額に入れて飾っておきたいくらい可憐だ。
はー……。
この人が俺の恋人だなんて、幸せ過ぎる。
朝からイイもの見れたなぁ。
「雪橋」
「何ですか?」
見惚れていると、起き抜けで寝ぼけ気味の葉山さんに呼ばれたので顔を寄せた。
あまりよく眠れなかったのか、疲れが取れていないようだ。
原因はベッドや枕か、それとも横にいた俺か。
雪橋が隣で寝ていたらいつ襲われるか分からないからおちおち寝ていられない、とか思われていたらどうしよう。
現に、抱き締めて寝ていたからな。
理玖さんにしてみれば、俺のあの行為は安眠妨害になっていた可能性大だ。
「……昨日は、ゴメン」
謝らなければ、と思っていた矢先に、何故か理玖さんに先を越されていた。
どうして理玖さんが謝るのだろうか。
心当たりが一切無いのですが。
「もう、嫌とか言わないから。あ、ちょっとは言うかもしれないけど、でも無視してくれていいから」
「何の話です?」
訊くと、理玖さんは目を伏せて言いにくそうに口を開いた。
「昨日、寝る時に……」
そこまで聞いて、眠りにつく前の不安そうな理玖さんの声を思い出した。
まさか、あれを気にしている?
理玖さんの反応があまりにも可愛くて、つい手を出してしまいそうになったけど思い直して止めたのを。
いやー、あれは俺が悪いと思いますけど。
そもそもで言うなら、可愛すぎる理玖さんがいけないんですけどね。
それは別件として。
あの後、俺が黙って寝てしまったから、機嫌を損ねたと案じているのだろうか。
むしろ、理玖さんが抱き枕になってくれたおかげで、これ以上無いくらい上機嫌なんですけど。
どうやら、理玖さんは俺のすることに対して否定的な事を言えなくなってしまっているようだ。
拒否したら、俺が怒るとか、振られるとか、そんな有り得ない事を思っているらしい。
俺に他に彼女がいると思い込んでいた時も、自分の方が遊びだと勘違いして泣きそうになっていたし。
どうしたらいいのかなぁ。
どうしたら、理玖さんが一番大切なのだと伝わるのだろうか。
ああ、もどかしい。
でもそこが可愛いです。
「それは言ってください。理玖さんがその気じゃない時は、殴ってでも拒んでください。じゃないと、俺はまたすぐに襲っちゃいますから」
「でも、それじゃ雪橋が……」
「俺の事はいいんです!」
こちらを優先してくれるのは嬉しいけど、無理はしてほしくはない。
理玖さんが気持ち良くなかったら、する意味なんて無いんですから。
とは言え、例え殴られたとして、俺が止まれるかの保障はできかねますが。
「怒ってない?」
「ないですよ」
恐る恐る訊かれたので、笑って答えた。
怯えたウサギみたいで可愛い。
撫でたい。
「強いて言うなら、もう名前で呼んではくれないのかな、と思ってくるくらいです」
少し寝癖の付いた理玖さんの髪を撫でながら、地味に気になっている事を言ってみた。
昨夜は「陽輔」を連呼してくれたというのに、行為後はリセットしたように「雪橋」に戻っている。
まさか、憶えていない、なんて事はないですよね。
「それとも、セックスの時にしか呼ばないって決めてます? それはそれで興奮するんで良いですけど」
普段呼んでもらえないのは少し残念だけど、そういうのもプレイっぽくて悪くはないな、と湧いた頭で妄想する。
実際、昨日の夜はめちゃくちゃ乱された。
うかつに思い出したらヤバいくらいエロかったぁ。
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