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「もう10年前だもんね」 と清香が言った。 「璃子、高橋先生と連絡とってたの?」 「大学、一緒なんだよ」 と璃子は説明した。  この辺りは、かつて18歳に戻っていた時に、環菜に話したことと同じである。 「でね、私のサークルの先輩が、高橋先生のゼミの後輩だったんだよ。それで、1度一緒に飲む機会があって。で、実はあの3年4組でした、って話をしたんだ」 「えっと……璃子の先輩の、先輩が先生だったってこと?」  環菜が天井をにらみながら言った。 「あんたの言い方、返ってわかりづらいけど、そういうこと」 「そうか、私たちが高3の時に先生は大学4年だから……普通なら重ならないよね」 と悠希が言う。 「学校が同じってだけでもすごいのに、再会までするとは」 「世界は狭いねえ」 と清香が言い、チキンとご飯を口に放り込んだ。この口は、ちっとも狭くない。  感心している悠希と清香の前で、ぼんやり環菜は考えていた。  あの実験のとき、璃子は実習期間中に先生と連絡先を交換したと言っていた。覚えている。卒業式の日に言っていた。  ところが現実は、璃子が大学に進学したのちに交流が始まっている。  本当に、あの1年はなかったことになっているんだな。  それで、不自由したことはない。今のところ、全く問題なく過ごせている。  時々、ほんのたまにこうして思い出されては、不思議な気持ちになる。  1番不思議なのは、心が苦しくなくなっていること。  結局、慣れちゃうんだな……あんなに寂しいと思っていたのに。  時は止まっても戻ってもくれないのだ。思い出を思い出として置いて行けるなら、その方がいい。  環菜は食べかけのハンバーグに目を落とし、小さく息をついた。ふと、顔を上げれば友人たちは談笑しながらモリモリ食事を続けている。
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