『卒業旅行したいけど、金はないから日帰りでどっか出かけよう計画』

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 4人はバスで移動し、降車してから再び歩いた。 「場面が変われば、終わるんだよ」  歩きながら、環菜は言った。 「それを教えてほしかったんだよ」  璃子はどよんとした顔で言った。 「今日始まったばかりなのに、すっごい疲れた」 「何か食べれば大丈夫」 と清香が言った。 「それは君だけだ」 「そうなの?」 「そうだね」 と悠希が言った。 「あ、あれか」  住宅街の路地の脇に、緑に包まれた門が見える。  前を歩く人のほとんどが、そこに吸い込まれていく。 「あれだ。意外と小さいのね」 と環菜が言った。 「こじんまりしてるって言いなさい」  璃子が隣をつついた。 「ねえ、せっかくだからみんなで写真撮ろうよ」  悠希がわくわくしながら、スマホを用意している。 「いいけど……門の前で?」 と環菜が言った。 「狭いし、ちょっと邪魔じゃない?」 「じゃあ、門の前じゃないところで撮れば」 と清香が言った。 「どこ」 「ここ」  清香が指さしたのは、門の脇にある、駐輪場スペースだった……。 「いや、そこじゃ報国寺だってわかんないじゃん」  璃子がいやいや、と手を振った。 「ありきたりなのもつまんないでしょ」 「それはそうだな」  環菜が、賛成に回った。  この2人が束になると、強い。  結局4人は、寺とはほとんど関係ない、駐輪場をバックに記念写真を撮ることになった。  横を通り過ぎる他の観光客たちが、何故ここで、と言いたげな顔でチラチラと見ていく。  しかも、何だかんだ始めれば盛り上がるのが、この高校生たちだ。  戦隊ヒーローみたいなポージングや誰かの真似など、バラエティに富んだ写真を撮るものだから、余計に周りの注目を集めてしまったのである。 「やあ、思いのほか盛り上がってしまった」 と環菜が言った。 「ここに来てすでに10分経ってますけど」 「まだ入ってないのに?」  璃子が驚いて声を上げた。 「大丈夫かな、絶対押すよね」  悠希が苦笑した。 「ロケ、今日中に終わるかしら」  清香が真面目な顔で考える。 「もういいでしょ、そのネタ!」 と璃子がツッコんだ。  こんなやり取りをしているから、どんどん時間が過ぎていくのである。 「まあまあ、とりあえず入りましょ」  主人公のひとことで、ようやく4人は最初の目的地、報国寺に入って行ったのだった。 →→NEXT:ハトとサブレとハナヒロと(SPゲストあり)
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