ダルジュロス王子とアンダルシアの少女

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 ガラスの前には、20種類ものパンが並んでいる。フォイアーが金髪の 女性に「ソーセージとトマトのパンを二つ買います」と言って黄色い紙幣を 三枚、彼女に渡す。真ん中にはワシミミズクのかぎ爪が描かれている。  店の近くにある木の椅子に座り、二人はパンをかじった。黒コショウが少し 入っていて、中からトマトの種が出そうになった。  「おいしいね。私、黒コショウが入ったパンって食べたことなかったんだ」 「そうなんだな。これは売り切れることが多くて、なかなか買えない時もある」と言って、彼はため息をついた。  「シャーリーはムカデに噛まれて片足が義足になった時、今よりゆっくり 塔の外を二時間歩いてたんだ。階段では転びそうになることがあるけどな」  アリスは驚きで言葉が出ない。シャーリーに義足のことを聞いた時、『一日つけてるんです。運動しないと筋力がつきませんからね』と笑顔で言われたのだ。  「顔上げろ。シャーリーは気丈(きじょう)で前向きだから、『どうしたんですか』って言われちゃうぞ」アリスは沈んでいく夕日を見て、「太陽って 暖かいんだなあ」とつぶやいた。それからフォイアーのほうに顔を向けて栞を 取り出す。  「それ、甘い香りがするよな」「うん。キンモクセイは希少だったんだけど、これは去年とっておいた花が入ってるんだ」「ふーん。ところで、五日後にこの塔の大広間で騎士や市民全員がダンスをするんだけど、オレと踊ってくれないか?」  
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