いらないものは捨てましょう。

いらないものを捨てましょう。
そう思い立ったのは、寒さも和らいだ春の頃。
モノにあふれた我が家を見渡し、ふとそう思った。
思い立ったが吉日。
やる気が萎えてしまう前に。私は動き出した。

スーパーのお弁当ゴミを捨てた。

部屋の隅に詰まれた新聞紙を紙紐で縛って捨てた。

いつ最後に読んだのか忘れた本を古本屋に売った。

着なくなった衣服を捨てた。

いらないものは捨てましょう。
やる気が萎えてしまう前に。私は動きつづけた。

すっかりカビ臭くなった布団を捨てた。

痛んで傷だらけになったテーブルといすを捨てた。

いつか使うと思っていたものも全て捨てた。

押入れの奥に山になっていたアルバムを捨てた。

アルバムの隙間から紙切れが滑り落ちる。
薄茶色に変色した紙には、たくさんの丸と棒が書かれている。
私はその紙をポケットに入れた。

いらないものがなくなった我が家はとても広々となった。
ホッと一息をつき、ソファに腰を沈める。
とてもよく動いたので疲れたのだろう。
ソファに身体を預けると、私の意識はそのまま遠のいていった。

○○市の住宅で9月24日、１人暮らしの無職女性（87）が死亡した状態で発見されました。家族は遠方に住んでおり、5年程女性宅には帰っていなかったそうです。
発見時、家財道具等は処分されており、女性が倒れていたソファと子供の描いたと思われる似顔絵だけが残されていました。