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「豚の生姜焼きか~、いいね」
玉ねぎの絵が等間隔に配置された柄のシャープペンシルを走らせながら、双葉が喜色を浮かべる。
「豚肉と玉ねぎを一緒に食べると、疲労回復効果があるんだよ」
「えっそうなの」
玉ねぎってすごいしょ、と顔を綻ばせて、彼女が立ち上がった。
「畑仕事あるから私帰るね。また何作ったかとか聞かせて」
「お、おう」
とても農作業をするようには見えない小さな背中を見送って、幸福の余韻に浸っていると、友人に思い切り肩を叩かれる。
「なーんか双葉といい感じじゃん!」
「う、うるせ……この前スマホ届けたお礼にって玉ねぎ貰ったからその話してただけだよ!」
「ほんとかな~?」
「むしろ他に何話すんだよ、……まだ片付けあるから僕帰るね」
そそくさと教室を去り、駐輪場まで早歩きで向かう。半ば強引に切り上げてしまったが、仕方が無い。友人たちに、真っ赤になった顔を晒すわけにはいかなかったのだ。
自転車に跨り、日向はぼんやりと残りの玉ねぎの調理法について考え始めた。
今まで玉ねぎを避けてきた所為なのか、玉ねぎが主役になる料理がなかなか思い浮かばない。
煮込んで嵩を減らすのも大量消費のひとつの手立てだが、あの玉ねぎは双葉が汗水を流し、愛情を込めて育て、収穫したものだ。
出来る限り、シンプルに、その愛情と労力を噛み締めたかった。
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