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「……隣の席の、柚原くん……だよね? こんなところで、どうしたの?」
何時の間にか近付いてきていた双葉の声にハッとなり、慌てて姿勢を正す。
向き合って初めて分かった事だが、意外にも彼女は小柄で、必然的に視線を落とせば、汗でしっとりと濡れた額に目が留まった。僅かに貼り付く前髪も、今は何だか魅力的に見える。
「……あの、スマホ、忘れてたから」
「あ! わざわざ届けてくれたんだね、ありがとー。……すぐ受け取りたいところなんだけど、今手が汚れてるから洗ってきてもいいかな?」
「も、もちろん!」
一笑し、その場を去るかと思いきや、双葉がくるりと向き直る。
「柚原くん、玉ねぎ食べる?」
彼女の問いに、一瞬躊躇う。
すぐに返事が出てこないのは、緊張しているからではなかった。
――――日向は、玉ねぎが苦手なのだ。
迷う心とは裏腹に、日向は首肯した。
この機会を逃せば、この先彼女と話せなくなる。そんな焦りがあったからだ。
双葉は嬉しそうに走っていき、数分後、重そうな袋を右手にぶら下げて戻ってきた。
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