第1話

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「私の家ね、玉ねぎ農家なの」  手渡しながら、双葉が言う。ずっしりとした重みのある袋を前カゴに入れた日向は、改めて畑を見回した。 「これだけ広いと、家族でやってても大変そうだね……」 「まぁ、わりと重労働だからね。でも、楽しいよ」  うららかな相好で、双葉は後ろに手を組んだ。しかし、遠くから祖母らしき人物に呼ばれ、柔らかな声はすぐに溌剌とした返事をする。 「ごめん、私まだ作業あるから戻らなきゃ。また学校でね!」 「……うん、学校で」  大きく手を振り、微笑む双葉を見ていると、貰った玉ねぎすら愛おしく見えてくるのだが、それとこれとは話が違う。  双葉の自宅が見えなくなったところで、もう一度袋の中の玉ねぎと睨み合ってみる。  今が旬の新玉ねぎと、貯蔵してあったという大玉の玉ねぎだ。袋を持ち上げた際に覚悟はしていたつもりだが、思った以上に量が多い。  路肩で立ち止まり、意味も無く夕日を見上げ、ぽつりと呟く。 「……これ、どうしよう」
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