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彼女と、会話がしたい。
強い思いから、ついに日向は腰を上げた。
大玉の玉ねぎをひとつ取り出し、皮を剥きながら、調理法を考える。
たしか豚肉があった。生姜焼きにしよう。
「……よし」
水洗いしたにも関わらず、禍々しいオーラを放つ玉ねぎを、まずは半分に断ち切り、まな板に寝かせる。
ごくりと唾を飲み干し、包丁を入れれば、僅かな抵抗が右手に伝わった。
「……あれ、意外に大丈……ウッ!!!」
じわじわと広がる目の痛みのバロメーターは、数秒も経たずに急上昇し、包丁を握っていた日向の手を止めた。
「この玉ねぎ、強い……!」
同居人は誰一人いないのに、そう言わざるを得ないほどの猛烈な痛みで、目が開けられない。
「駄目だ、これ、やばい……男たるもの……こんなもので……泣い……」
必死に自身を激励するも、手は少しずつしか動いてくれない。
次第に日向はやけになり、最終的にはかなり大まかに刻んで、フライパンに放り込んでいた。
袖で涙を拭いながら、大きすぎて全然日の通らない玉ねぎを一心不乱に炒める。
こんな姿、双葉に見られたくない。
シャリシャリ感を消す為、独特な匂いを消す為、炎と油で応戦するが、飴色になるまでは暫く掛かりそうだ。
調理を開始してから、もう30分経つ。
「早くご飯食べたい……」
弱音を吐いたちょうどその時、炊飯器から愉快な音が聞こえた。
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