ほんとうのお役目

2/10
前へ
/10ページ
次へ
 お嬢様が、お屋敷を抜け出した。  僕がそれに気づいたのは幸運としか言いようがない。二階の窓辺に飾っている、花瓶の水を変えようとしたからだ。ふと窓の外を見ると、赤いドレスのお嬢様が走っていくのが見えた。  お屋敷の周りは庭園になっている。僕だけじゃ手入れができないから、荒れ放題だ。野坊主に伸びた植物たちが、お嬢様の姿を簡単に隠してしまう。 『お嬢様をお屋敷の外に出してはいけないよ。外には、危険がいっぱいだからね。君がお守りするんだよ』  そう、任されたのに。  僕は花瓶を乱暴に置き直すと、慌てて駆け出した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加