PLEASE GOD!

1/1
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

PLEASE GOD!

天気が良くて、ポカポカした日。お昼ご飯を食べて、僕は後片付けを終えた。さあて、久々に羽根の手入れでもしよっかな。 目の前にいる彼氏はいつものようにパチンコ攻略本を寝転びながら読んでいる。 あーあ、そんなの読んでも君、いつも勝てないでしょ。それでも真剣に読んでる彼が可愛くてニヤつく僕。こんな休日が僕は大好きだ。 だけど、のんびりとした休日は一本の電話で、あっけなく終わった。 「えええ!?いま、いまから来られるんですか?」 突然の来訪予告の電話に僕は慌てる。電話先の相手は何か不都合でもあるのか、と不機嫌になる。いやいや、沢山不都合はありますけども! 「片付けていないからっ、あと一時間ほど時間を下さい!」 僕は何とか時間を稼ぐため、一時間という時間を作り出して電話を切った。 何がやばいって。僕は一人暮らししている、ということになってるんだ。なのに、実際は彼氏がいて。いや、同性なら友人って言えばいいだろうって?だめなんだ。だって僕は天使で、彼氏は悪魔。電話先の相手は僕の上司、大天使様なんだから! 天使が悪魔と同棲してるなんて、バレたら…! 電話を切った僕は顔面蒼白になって、慌てて片付けを始める。 ええと、僕は吸わない彼のタバコ、灰皿。いかついアクセサリーに、武器のように尖ったパーツの付いている革のブーツ。ああ、それに、テレビ台の横に置いてある大人のオモチャコレクションも!全て片付けなきゃぁぁぁ!そしてふと目に入る、彼。何より彼をどうにかしなきゃ…!! 「は?出て行け?」 攻略本から目を離して、彼が怪訝そうに言う。 「いやいや、そんなんじゃなくて!一日だけでいいからさ!大天使様が今から来るって言うんだよぉ。君と同棲してるなんて知られたらヤバいだろ」 僕が必死に言うと、彼はふぅとため息をついた。僕の頭をポン、と一回叩くと起き上がって背伸びする。 「分かったよ、明日の昼戻ってくるわ」 「ああありがとう!」 僕はぎゅーっと彼に抱きつくと、イテェよ!と笑った。 それからの僕の動きはすざましかった。とにかく消さないといけないのは彼の痕跡。そして一人暮らしをしているという証拠づくり。 あああせっかくの休日、僕は何してんだろう! タイムリミットの一時間後。どうにかこうにか、片付けを完了した。大天使様は鼻が効く。悪魔の匂いと、昨日の夜の情事の匂いがバレそうなので、換気と消臭スプレーをこれでもかってくらい振りまいた。 よし、これで完璧だ!そう思った時、玄関のチャイムが鳴る。僕は返事をしてドアを開けようとした時。玄関の靴箱の上にドクロの指輪が見えた。 「?!」 僕はブワワッと一瞬にして汗がでて、そのドクロの指輪を靴箱の奥へと投げ放った。 「やあ、私の愛しい天使よ。元気にしていたかい?」 「も、もちろんです!ミカエル様」 人間の姿になっているミカエル様は長髪でモデルのようにスタイルがいい。人間界に来るならもう少し平凡な容姿にすれば良いのに。 「突然ですまないね。色々あってちょうど近くに寄ったものだから。明日の朝、帰るから一晩いいかな」 色々あって、なんて嘘だ。大天使様が抜き打ちで来て泣きを見た同僚を数人知ってる。 「どうぞ、どうぞ」 僕は人間界の生活が大好きなんだ!手放してたまるもんか! 翌朝。何事もなく大天使様は上機嫌に帰っていった。大天使の癖に、人間界に来たら酒を沢山飲むんだから、タチが悪い。僕は送り出した後に痛む頭をさすりながら一安心した。良かった、バレなかった!同棲も、彼との付き合いも! 鼻歌混じりに、部屋を元の状態に戻す。彼の歯ブラシ、ブーツにタバコ。おっと、玄関で投げたドクロの指輪も拾っておかないと! すっかり元に戻った部屋。いつもの眺めになって安心していたけど、気がついたらもう十四時を回っている。昼には戻る、と言っていた彼の帰宅が遅い。鉢合わせを避けてくれてるのかな。アイツ、そういうとこがあるからな。悪魔のくせに、僕には優しいんだ。 大きく欠伸をしてソファーに座る。なんだか安心したから眠くなってきちゃった。 ハッ、と眠りから覚めて辺りを見ると薄暗くなっていた。時計は十八時を指している。相変わらず彼は戻って来ていなかった。携帯を見ても連絡がない。いくらなんでも、遅すぎる。と、その時ゾワッと変な考えが浮いた。 もしかしたら、怒ったのかな。本当に出ていったのかな。有無を言わさず追い出したもんな。もしかしたら……。昨日とは違う、嫌な汗が手のひらに滲んだ。 と、その時。ガシャガシャと玄関先で音がした。僕は慌てて内側から玄関の外を見ると、彼が鍵を出しながらドアを開けようとしていた。戻って来てくれたんだ!僕は内側からドアを勢いよく開けた。バン、とぶつかる音がしてイテェ!と彼が額を抑える。 「わ、ごめん!お帰りなさいっ!」 僕は抱きついて思いっきりキスをした。 「なあ、本当にミカエルに報告すんの?」 「うん!」 パチンコで珍しく買ったお金で、ケーキを買って来てくれた彼。それを食べ終えて僕は大天使様に彼と付き合っていて、同棲していることを報告することにした。甘いケーキが気持ちを落ち着かせてくれる。 「だって僕の本当に大切な人がわかったから!」 僕がそう言うと、彼は真っ赤になって僕にキスしてくれた。 きっと大天使様は電話先で真っ赤になって怒るだろう。もうクビになるかもしれない。それでも僕はこの人間界で彼と生きていきたいんだ! 「全く、気づかないとでも思ってるんですかねぇ」 「よぉ。ミカエル。抜き打ちどうだった?」 「甘く見られたものですよ、私のこの鼻が悪魔の匂いを逃すわけないのに」 「へぇ、許してやるの?」 ミカエルは少し口元を緩めた。 「心を改めて本当のことを言ってきたら、考えましょうかね」 【了】
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!