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親忠は、巴の後ろに回ると、手首を縛る紐を解いた。
巴が、ようやく解放されたことに安堵した瞬間、腕を引かれ、床に押し倒された。親忠が、上からのし掛かる。
「ろ、六郎殿、何を……」
巴は抵抗を試み、腕や足を激しく動かす。しかし、
「できれば、このような手段は避けたかったのですが……いかに中原殿とて、既成事実があれば、認めざるを得ないでしょう」
親忠は巴を強く抱きすくめ、衣を脱がそうと袴の紐に手を掛けた。
「このようなこと……生涯、許しませぬ」
巴は唇を噛んで、親忠を睨み付ける。
「それでも構いませぬ。巴殿が俺に対して、それだけの感情を向けてくださるのならば」
「な、何故そこまで……」
「俺が、巴殿をお慕いしてはいけませぬか。俺では……駄目ですか、巴殿」
我に返ったように親忠は巴から身を離し、その正面に座り直した。
「六郎殿……」
「俺は、幼い頃から何をしても、兄者に敵わなかった。それで自棄になりかけた頃、初めて巴殿とお会いしたのです。覚えて、おいでですか」
幼い日を思って遠くを見るように目を細める親忠に、巴もまた、懐かしい日々を思う。
「ええ、覚えています。元気で仲の良いご兄弟だと、羨ましく思いました」
「兄者は、心底俺を可愛がってくれました。でも俺は、兄者と並ぶことに、兄者と比べられることが嫌でした……けれど、巴殿は違った。女子の身で、冠者殿や四郎殿と張り合っていた。それがとても、輝いて、眩しかった」
親忠の言葉に、巴は胸を熱くする。
「ありがとう、六郎殿。ですが私は、冠者殿のお側にいたかっただけ」
「存じております。それに気付いたのは、随分後ですが。そうと知っても、あなたへの気持ちは揺らがなかった。とはいえ、何事もなく冠者殿と山吹殿の婚儀が行われ、巴殿の想いが叶うのならば、俺はこのまま引き下がるつもりでした。ですが、こんな……巴殿の、冠者殿への気持ちに付け込むようなやり方……俺は、到底許すことができぬのです」
親忠の真剣な怒りを有り難く思うが、巴は、決意を翻すわけにはいかない。
「山吹殿の事情に付け込んでいるのは私です。誰のためでもなく、自分のためなのです」
「そのようなこと、信じられぬ」
親忠が、再び巴に迫る。その時であった。
「やはり私は認められません、六郎殿」
二人の間に、一人の少女が割り込んだ。
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