雨あがりの恋

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やや茶髪のくせっ毛と大きな丸い目が特徴的な廉君は、どことなくマサに似ている。 より笑うと近くて、父らとシンガポールへ行ってしまったマサを思い出し胸が苦しくなった。 「やっぱり失礼だったかな?」 私の表情が曇ったせいだろう。廉君の眉は心配そうに下がり、目はゆらゆらと揺れている。 「ううん全然」 「そう?」 廉君がまだ心配そうにするので、私は「優しいんだね廉君、本当に大丈夫だよ」と、笑うと、彼はちょっと照れくさそうに顔を振った。 その様子もまるでマサのようで胸に密かな切なさを感じた。 「早く行かなきゃ……」 結婚式場のアルバイトを終えた私は、父から大学の入学祝いに買ってもらった腕時計を見て、焦っていた。 なぜなら30分後には別のアルバイト先に行かなければならないからだ。 現在私はアルバイトを二つかけ持ちしている。 学費を払うためには結婚式場のアルバイトだけでは追い付かず、三日前から家の近所のファミリーレストランで働きはじめたのだ。 ファミリーレストランでの仕事内容は、ホール担当のため結婚式場の仕事と似ておりやりやすい。 ただこれまでお嬢様だった私にとって、続けて働くことは安易なことではなかった。 深夜二時に帰宅する頃にはヘトヘトで、すべてを明日に回すことにして布団に入ることになる。 少し昔の私なら考えられないことであるが、疲れているおかげで空しさとか寂しさを考えずにすむことはよいことだった。 「ひばり、大丈夫?また寝てたよ」 音色は小さなため息を吐きつつ言った。 一人暮らしをはじめてふた月ほど過ぎた。なんとなくリズムがつかめ大学へはちゃんと行っているけれど、最近講義に集中できず居眠りばかりしてしまう。 学費のために頑張って働いているというのに、これでは意味がない。 しかし、教授の声がまるで子守唄のように聞こえてしまう。 私は眉を寄せた。 「ねぇ、そんなにキツいの?」 「……そんなことないよ、大丈夫」 「……無理しちゃって……」 「無理してないよ」 音色の顔も声も苦しそうだったけれど、私は無理に笑顔を作った。
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