68人が本棚に入れています
本棚に追加
そう思うのも、大学には卒業すると同時に見合いをした相手と結婚し家庭に入る者が結構いるのだ。
女もバリバリ働く現代には合ってないけれど、お嬢様学校に通う私たちには自然なこととして受け入れられていた。それに私の母も大学を卒業してすぐ父と結婚している。
そのため私も、ぼんやりとだが同じような道を歩んでいくのだろうと思っていた。
「そ、そうなのかな……」
「うん、あり得る。どんな人だろうね?」
「どんな人ってまだ決まったわけじゃないよ」
そう言いながらも、もしかすると……を想像して、胸に緊張を覚えた。
しかし、迎えに来た岸さんの落ち着かない顔を見ておめでたい話ではないことを察した。
それに、自ら話を振ることのできない私を気遣い岸さんは普段何かと話しかけてくるというのに、今日の車の中はとても静かでいつもの彼と違うことを表していた。
家に戻るとリビングには普段仕事で遅い父がおり、義母と暗い顔をしてボソボソと話し込んでいた。
「ただいま……戻りました」
私の声に父がハッと反応して、手招きをした。その顔は青白くて、彫りの深い父の顔が私の目に怖く映った。
「ひばり……」
父の声はひどく頼りない。私は唾をコクンと飲み込み、ソファに腰を下ろした。
「何かあったの……?」
「……実はな、会社がなくなるんだ」
「……なくなるって……?」
「倒産するんだ」
あまりにもそれと父の会社が結び付かない。父は不動産業を軸に輸入雑貨や飲食店を経営している。
母が亡くなった頃から多方面に店を増やしていき、やり手経営者としてテレビで取り上げられたこともあった。
会社も分社化し複数のオフィスを持っていたが、経済的な負担があったなんて知らなかった。
私は何も言えず、父を見て固まる。
最初のコメントを投稿しよう!