雨あがりの恋

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「この家も売却するんだ」 私は何かで叩かれたようなガンとした痛みを頭に感じた。 この家は母と過ごした思い出がたくさん詰まった場所だ。周囲を見渡せば優しかった母を感じることができる。 「そんな……」 この家から離れるなんて嫌、嫌すぎる。 私の声はひどく掠れ震えていた。 「すまないひばり……」 しばらく沈黙が続き空気が重く沈むが、それを変えたのは義母だった。 「ひばりちゃん、落ち込まないで、大丈夫よ!ここより狭くなるとは思うけど、綺麗なところを探せばいいわよ、ね?」 義母は明るい声でそう言いながら、父の手の甲に手を置いて、父を上目遣いに見た。 父は困り顔を作りつつも、義母に優しい表情で笑いかける。 私の眉間にはしわが寄ったはずだ。 もう父は母のことなんて何とも思っていないのだろうか。 遠回しに古い家と言われたことに、私は傷付いているというのに……。 でも私には何の力もない。何も言えない。 下唇を強く噛み締めて、俯くだけだった。 それから数日後、父は知人を頼ってシンガポールで仕事をはじめると言ってきた。 義母と弟も一緒に連れて行くと言った。 父は私にも一緒に来るか、と聞いたけれど、私は頷かず大学を理由に残ることに決めた。 父はそれを少し心配したけれど、反対はしなかった。 私がいない方が上手くいく。 私だけじゃない、父もそれをわかっていた。
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