雨あがりの恋

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もちろん義母にとって私は邪魔者であるから、彼女が“一緒に来ない?”と、誘うことは決してなく、父らがシンガポールへ渡る日まで淡々と時は過ぎた。 私はというと大学からやや近い築43年の1DKのアパートを借り、一人暮らしをはじめることになったのだが、自分がどれだけ恵まれた環境にいたのか知ることになる。 「ウソ……お湯が出ない……」 キッチンの水道は蛇口一つ、水しか出ないことに私は少しの間呆然とした。 今日越してきたこの部屋は、父の知人の紹介で借りたものの、荷物を纏めることばかりで、私は部屋を今日まで見ることがなかった。 去年壁を塗り替えたばかりらしく、外観こそ築年数より新しく感じたことにホッとしたものの、まず自室より狭い部屋に驚いた。 また、はじめて見るユニットバスや痛んだ畳に襖を見てしばらく立ち尽くしてしまった。 それでも気を取り直し、キッチンへ行き今の状態になる。 “ピロリンピロリンピロリンピロリン……” チョロチョロという流水音が響く部屋に、スマホの着信音が鳴り響く。 私は蛇口をギュッと閉じ、スマホを手に取った。 (パパかしら……) 心細かったので父の声を聞けるかも、と期待したけれど、電話の相手は音色だった。 私は父の会社が倒産した日から大学を休んでいて、音色から何度と心配の連絡をもらっていた。 けれど、私はどこから話せばいいのかわからず“ごめんね、色々落ち着いたら連絡するね”と、メッセージを送っただけだった。 電話はしばらく鳴って切れた。だが再び鳴りはじめたので、私は「はい……」と、電話をとった。
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