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「もしもし、ひばり?」
「うん」
「あぁよかった、繋がった。もうーなんで出なかったのよ、心配してたのよ!」
音色は心配げで、それでいてムッとしたような声を上げた。
それに私の心は少しだけホッとする。
「ごめん……」
「ごめんじゃなくて……。あぁ、でもよかった……。聞いたよ、ひばりパパの会社のこと」
テレビを見る暇もなかったが、父の会社が倒産したことはきっとニュースになっていたはずだ。
「……そう……なんだ」
「大変だったのね……今もだと思うけど」「……うん」
音色はものをハッキリ言えない私とは正反対の性格で、隠し事などはできず思ったことをその場でハッキリと口に出すタイプだ。
誰に対しても思ったことを裏で話したりせずに、本人の目の前で直に伝えるので、周囲と対立することも多いと本人は言うが、優柔不断でくよくよするひばりと判断力がありさばける音色とは相性がよく信頼関係が築けている。
今だってどこから切り出してよいかわからない話題を、音色から話してくれたことにホッとしている。もし逆の立場ならひばりは電話もできないはずだ。
「ひばり、大丈夫なの?今はどうしてるの?」
「……うん、落ち着いたら話そうと思ってたんだけど……私ね一人暮らしをすることになったの」
「……え!ひばりパパたちは?あの家も出ていかなきゃいけなくなったの?」
「うん、家も売ることになっちゃって……。パパたちは新しい仕事をするためにシンガポールに行ったよ」
「……えぇ」
音色は私の状況を整理するために少しの間黙った後、「ねぇ、今時間あるなら家に来ない?」と、誘った。
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