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はじめて会った弟は小さな身体をさらに小さくして、自分の気配を消そうとしているような子供だった。
それは少女のような可憐な容姿に似つかわしくなく、とても痛々しかった。
野心のある母親に怯えて暮らしている弟を、紀一は不憫に思い、城への抜け道を教え、正室である母の元へ遊びにくるよう誘った。
可哀想で可愛い弟の居場所を作ってやりたいと思ったのだ。
存在していてもいいのだと教えてやりたかった。
穏やかな性質がよく似ているためか、弟は母によく懐き、母もたいそう弟を可愛がった。
母親同士の確執など関係なく、紀一も弟が愛おしかった。
身を縮こませ怯えるばかりだった幼い弟は、優しく聡明な美しい少年へと成長した。
その頃には父の目にもとまり、弟も城へ移り住むこととなった。
紀一はこの美しい弟を誇らしく思っていた。
しかし母は違ったようで、この時珍しく父に意見をし、複雑な顔をしていたのを覚えている。
今思うと何らかの予感があったのかもしれない。
女の感はよく当たるものだ。
紀一は母を安心させるために「俺が母上と勘解由を必ず守る。側室の好きなようにはさせない」と伝えたが、母は複雑そうに微笑むばかりだった。
***
痛む腰を堪え、勘解由は庭へ降り立った。
庭には大きな池があり真っ白な睡蓮が浮かんでいる。
優しい色合いの華に吸い寄せられるよう、勘解由はふらふらと池へと近づいた。
「あっ」
池の淵でよろめき危うく落ちそうになったその時、逞しい腕に支えられた。
勘解由が自力で立つのを見届けると、その腕はすっと引いていき、若い兵が少し離れた場所に跪く。
「…あ、ありがとう」
跪いたまま微動だにしない男に、勘解由は礼を言う。
すると男はゆっくりと視線を上げ、勘解由を見た。
真っ直ぐな視線を向けられ、勘解由は居心地悪くなる。
この鄧十郎が次第に勘解由の心の支えとなり、のちの人生に大きな波乱を呼び込むことになるとは、この時の勘解由は思いもしなかった。
***
ーー勘解由、十五の歳。
勘解由への思いと当主への憎しみを募らせた鄧十郎は、仲間を集め謀反を起こす。
当主をはじめ正室や側室、藤代の血を引く多くの者たちが死したこの謀反は、国外に遠征へ行っていた紀一の予定より早い帰還により収束を迎える。
その際、鄧十郎は紀一に打たれ、志半ばで果てた。
勘解由は大切な家族の死と、愛する人の死、そして尊敬する兄から向けられる侮蔑の目に、ひどく傷つき涙を流した。
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