1. サングラスの女 【わたし】

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 サングラスの奥の目線が気になる。  女の首筋から思考回路に入り込んでみる。  女の眼球から伝達される映像は茶色。  焦点が浮遊し定まっていない。  明らかに車窓からの景色を楽しんでいるわけではない。  脳神経が繋がるたびに映し出してくるのは、……そうか、クラスメートの顔か。  その目は、獲物を捕らえたような鋭い光を放っている。  残酷で優越感に満ちた人間の眼光。  教室の机に座り、たむろしている男の集団が、こっちを見て“フランケン”という言葉を遠巻きに浴びせてきては、く、く、く、くっと、含み笑いをしている。  一様に幼くて軽薄な顔立ちをした男達。   次の映像は、……街のショウ・ウインドウに映る自分の姿。  左足をひきずりながら歩く姿。  今度は朝の洗面台に映る顔。  細長いミミズがいつもどおり二匹張り付いている。  決して無くならないミミズ。   ――醜い!――  おさまることのない怒り、湧きあがる憎しみ――。  それらをギュッと、強く握りしめた拳を鏡に映る自分の顔目がけ、思いっきり叩き壊したい衝動。  ――壊したい、壊したい、――  かろうじて抑制しようとする感情と心の葛藤。  それだけで、……消耗する。  毎朝、洗面台に両手をついてうな垂れる日々。
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