24. 結衣の帰還 《最終話》

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 美咲は前かがみになり走り出す、が、すぐに滑って膝を打つ。  両手をつき、立とうとするが足が滑って前へ進まない。  美咲は四つん這いになりながら、ピクリともしない小さな黒髪に向かって必死の形相で進んでいく。  見物人と化した通行人はその様子を眉間にしわを寄せながら心配そうな表情で見入っている。  その中には勇気をもって携帯電話で110番通報し、声を震わせながら場所を知らせているものもいれば、母親の這いつくばる動きを携帯電話で写したり、写真を撮っているものもいる。  後者は一様にのっぺりとした顔をして、アップした後の反応を思い浮かべながらワクワクしている。  乗用車に側面をぶつけられたトラックは、反対車線を封鎖するように斜めになりようやく止まった。  母親はなかなか距離が縮まらないことに業を煮やし、もう一度叫ぶ。  「ゆうとー!!!」  その悲痛な叫び声で魂を呼び覚ましたのか、優斗と呼ばれた男の子はうな垂れながらむくっと立ち上がった。  その光景を見ていた歩道上の見物人から、どよめきと共に「オォォォー」という歓声があがった。  隙間なく埋め尽くされた前列の見物人を押し分けて五十代前半の小太りの女、陽子が車道に飛び出す。
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