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大きく傾いた弁当の中身を元の位置に寄せながら、抜けるような秋空を見上げる。
やっと昼食にありつくことが出来た僕は、母親の焼いた卵焼きを少量口に含んだ。
今日はいつもよりマシだった。
この学校に給食が出なくて良かった。
鉛筆を買い直さなければ。
ぼんやりと考えながらも、愛情を込めて作られた昼食を咀嚼し、確実に飲み干す。
笑顔で登校し、空っぽになった弁当箱を持って帰宅するのが、現時点での僕の任務だ。
その任務が無事今日も遂行される目処が付くと、そこで漸く僕は胸を撫で下ろす事が出来た。
校門付近の生徒も疎らになる頃、重い腰を上げて立ち上がる。屋上のフェンスから、奴らがいないことを確認し、帰ろうとしたその時だった。
「なんだ人いんじゃーん」
気だるそうな女生徒の声に、体が強張る。その場から動けずにいると、彼女と目が合った。
中学生らしからぬ派手な風貌の、細身の少女だ。髪を明るい金色に染めて、目元にはしつこいくらいのメイクを施し、もう10月だというのに無防備な素足を晒し、爪には遠目でも分かるほどの華々しいネイルを纏っている。
彼女は俗に言う“ギャル”で、陰湿な存在である自分とは無縁の存在だったが、僕はクラスメイトである彼女の名前を認知していた。
岸上凛鈴。教師を悩ますことで有名な、所謂問題児だ。
普段は同属のクラスメイトと屯している凛鈴が、何故屋上にやってきたのか、皆目見当がつかない。
「あ、えーっと、誰だっけ? い、飯泉……飯泉……飯泉結翔!」
「えっ……なんで僕の名前……」
「何でって、結翔この学校では有名だもん!」
有名といえば聞こえは良いが、恐らく“いじめられっこ”としての知名度が高いだけの話だ。暴言や皮肉には慣れていたが、凛鈴があまりにも無邪気に笑うので、反応に困ってしまう。
そんな僕を意に介さず、凛鈴は屋上を物珍しそうに見回した。
「うわー、ここ初めて来たけど、けっこうフェンス高いなぁ」
フェンス、と言う単語と、彼女が手に何も持っていないことが引っ掛かり、確認するように問い掛ける。
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